寒に入り5

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「何度目かで、何とか、家から通うとか、門限厳守とか、学校は必ず行かせるとか、ルールをクリアするのであればって条件付きでOKもらってさ」
「女子高生だったんだもんな、わからないでもない」
 小笠原はわかったふうに頷きながら焼き鳥を齧る。
「奈々ちゃんのマネジャー兼ボディガードに谷川さんが決まったはいいけど、あの人、最初、工藤に敵対心ありありでさ、気苦労が多かった」
 今では谷川は、会社にとっても頼もしい一員になってくれているのが非常に有難いのだが。
「そうだ、谷川さんとこもさ、いろいろで離婚しちゃってるし」
 谷川は谷川でいろいろ問題を抱えているのだ。
「でも、子供の結婚式には出たとか言ってたじゃん」
「まあな。とにかく、ご家族が参加されるかどうか聞いてみないと」
「うちの連中、訳ありばっかだからな」
 小笠原がしみじみと言うのが、良太は可笑しくて笑った。
 確かに、こんな人気俳優でも事務所の社長に裏切られたという過去のせいか、疑心暗鬼になってなかなか人を信じられないらしい。
 せっかくできた彼女にも忙しすぎてフラれたばかりだ。
「何で笑うんだよ」
「いや、お前もうちの一員なんだよなって思って」
「てめ、そういう生意気なこと言うと、唐揚げもらい」
 素早く良太の皿から唐揚げをつまんで口に入れる。
「あ! 何すんだよ! 俳優のくせに、庶民から唐揚げ奪うなんて!」
 良太が抗議しているところへ、ビールのお代わりが運ばれた。
 すかさず、小笠原は唐揚げを追加オーダーする。
「ちぇ、どうせ、経費だからと思ってるな」
「細かいこと気にすると、小田さんみたくなるぞ」
 ジョッキを持つ良太の手が止まる。
 小田は工藤の大学の同期で、青山プロダクションの顧問弁護士でもあるが、日頃から工藤のお陰で額が後退したと文句を言い合う仲である。
「やめてくれ………」
「で? 工藤ファミリーが集うのはどのホテルだ?」
「その言い方やめろ。ホンモノっぽ過ぎる」
 良太は都内のハイグレードホテルの名前を言った。
「おお、そりゃまたゴージャス!」
「ほんとはハワイとかグアムとか行けたらよかったんだけどってやつだから」
「いんじゃね? きっとみんな喜ぶさ」
「ま、な。俺んちなんか一家して大喜びでさ」
 ただ、宇都宮には会えるのかなどと聞いてきた妹の亜弓のことが気になるのだが。
 無論、会社の慰安旅行替わりだから宇都宮は関係ないとは言ったものの、上京したら宇都宮に逢いたいとか何とか良太に注文をつけている。
 それを口にすると「ドラマの撮影見学とかくらいさせてやればいいじゃん」と小笠原は事も無げに言う。
「せっかく業界にどっぷりつかってるんだからさ」
「やめてくれ………俺の人生どこで狂ったんだろ」
「今さら何言っちゃって」
 ケラケラと笑いながら小笠原はビールを飲み干した。
 いやほんと。
 何で俺、人気俳優と普通に飲みとかしてんだろ。
 最近、業界人以外とは顔を合わせていない気がする。
 かおりや肇とはラインでおめでとうメッセージを送り合ったくらいで。
 ふと、小笠原も飲む友達がいないとか言っているし、同じく社の看板俳優志村嘉人や意外にも中川アスカもあまり腹を割って話せる友人がいないとか言っていたのを思い出した。
 志村はマネージャーの小杉とは劇団時代からの付き合いだからいいとしても。
 やはり大人になると、そう簡単に心を許せるような友人を作るなど、結構難しいものだろうか。

 


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