霞に月の100

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 工藤にとって誰が大切かなど、拉致された香坂を人任せにして意識のない良太を連れてとっとと去ったのを目の当たりにすれば、自ずと答えは出ているのだ。
 ただ、だったらちゃんと良太に伝えればいいだろうという話なのだが、何せ今回のように、簡単に拉致監禁などをやってしまう組絡みの抗争に良太が巻き込まれることを危惧すると、工藤が二の足を踏んでしまうのもまた秋山には理解できないことはないのだ。
 工藤の電話が終わったのを確認すると、アスカに背中を押された秋山はパタパタとスリッパで工藤のデスクに歩み寄った。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
「まあ、夜まではオフなんで、この雨なので、ちょっと移動したくないですね」
「そうだな」
 窓の外を見るとガラスに叩きつけるかのように雨が降っている。
 良太のやつ、この雨でまた風邪なんか引き込まなけりゃいいが。
 今日は鎌倉に窯を持つ陶芸家の撮影のはずだ。
 著名な日本画家を父に持ったが息子は陶芸の道に進んだらしい。
 出演者の都合で、ここのところたて続けに撮影が入っているようだが。
「良太ちゃん、今日、鎌倉でしたっけ? 無理しなきゃいいけど」
 工藤の心の内を読んだかのように秋山が言った。
「昨日はすまなかったな」
「いえ、それは俺も谷川さんも一向に構わないんですが、どちらかというと、お二人がぎくしゃくしてるんで、お嬢さんが良太を心配してやきもきして困るんですがね」
 工藤は一瞬言葉に詰まる。
 まったくこの男はうまい言い回しをする。
 これではお前らに関係ないだろうとも言い難い。
「全体香坂先生とはどういう? そういえば香坂先生、大丈夫でしたか?」
 鈴木さんやアスカの手前、はっきりとしたことは秋山も口にできず、持って回った言い方をした。
 工藤は苦笑した。
「クロエ、香坂は高校の同級生で、久しぶりに会って話し込んだだけだ。ざっくばらんなやつだし。千雪が加賀のとこに連れてったらしいが、本人はパンダに同情する程度だ」
 なるほど、と秋山は納得した。
 普通なら怒るよな、私を置いてったとかって。
「明日、昼に詫びのランチを奢ることになってる」
 それを聞くと秋山はちょっと眉を顰める。
「香坂先生の方はいいでしょうが、良太にもちゃんとフォローしといてください。いくら良太でも言うべきことは言わないといい加減堪忍袋の緒が切れるわよって、お嬢さんからの伝言です。大事にし過ぎて壊してしまったら元も子もないですよ」
 秋山は、では、と踵を返して、やきもきしているお嬢さんの元へと戻っていく。
 その後ろ姿にフンっと工藤は鼻で笑う。
 大事にし過ぎて壊してしまったらか。
 確かにな。
 工藤には珍しく反論するべき言葉もなかった。
 


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