霞に月の101

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 みんなが良太を大切にしているのはよくわかっているし、そこのうるさいお嬢さんの言葉を借りた秋山の言いたいことも工藤には痛み入るほどだが、正直工藤には大切と思えば思うほど、このまま良太を傍に置いていいものかと考えてしまうのだ。
 コーヒーをすすっているとまた携帯が鳴った。
「ああ、わかりました。これから向かいます」
 MBC時代の先輩から来年放映予定のドラマに駆り出されることになっていた打合せが、局側から急遽前倒しになったという連絡だった。
 昨今、衰退の一途を辿ると思われていたテレビ業界では、ネット配信というシステムに乗っかれるコンテンツとして、またドラマ制作が増加している。
 工藤としてはより一層厳しい状況の業者に少しでも仕事を回せればという目論見もあり、受けられるものは受けてきた。
 検査に引っ掛かってから一時よりは仕事量を減らしたものの、最近また仕事量が増えている。
 だが先輩の紺野は未だに工藤に輪をかけてワーカホリックだ。
「出かけてきます。良太も帰らなかったら、定時で閉めてください」
 工藤は鈴木さんにひとこと言いおいて、雨の中出て行った。
「何だかまた工藤さん、ワーカホリックになってきたわねえ」
 鈴木さんがぼそりというのに、「まったくです」と秋山も頷いた。
 良太が戻ってきたのは、案の定九時を過ぎた頃だった。
「うう、疲れたあ」
 オフィスの灯りは消えているし、良太はそのままエレベーターで自分の部屋へと向かう。
 隣の部屋の灯りももちろん消えていて、最近工藤は使っていないようだ。
「まあ、いいけどね」
 自分に慰めの言葉をかける良太を癒してくれるのはやはり二匹の猫たちだ。
 チビ猫チビも大きくなったが、やっぱりまだ幼い気がする。
 少し肌寒いのでエアコンを入れると、ご飯をやって猫のトイレを掃除してから、良太は風呂へと飛び込んだ。
 雨で身体の芯まで冷え込んだ気がする。
 それでも九時に戻れたのはありがたいくらいだ。
「明日は出かける予定ないし、一息つけるかなあ」
 風呂から上がるとコンビニで買ってきた弁当とビールを飲みながら、猫をおもちゃでちょっと遊ばせる。
 だがうっかり寝落ちしそうになった良太は、「いっけね、また風邪なんか引いてる暇ないんだっての」と独り言ちて、ベッドに潜り込んだ。
 しばらくすると猫たちもベッドに乗っかってきて足元に丸くなったのを見た良太は、笑みを浮かべて目を閉じた。
 

  

 高輪から直接大学に向かった工藤は、正門の近くに立っている香坂を見つけた。
 工藤の車に気づくとすぐに香坂は助手席に回った。
「あら、こんなすごいとこならもっとおしゃれしてくればよかった」
 工藤が香坂を連れて行ったのは、時々接待などで使う神楽坂の料亭『雅楽』だった。

 


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