「結論から言うと、工藤さんに香坂准教授くっつけよう作戦、完敗やで」
鈴木さんの姿が見えなくなった途端、千雪が言った。
「は?」
「あの二人は同級生以上にはなれへんいうこっちゃ」
「やっぱり、香坂先生、あんな目にあったから」
良太ははあ、とため息を吐く。
「ちゃうで。拉致されて怪我までさせられた件は、今日、工藤さんにランチ奢らせてちゃらやて」
「ええ?」
「しかも香坂センセ、加賀センセと付き合うとるんやて」
「はあああ?」
あまりに意外過ぎる展開に、良太は呆気にとられた。
「どうかしたの? 良太ちゃん」
声を上げた良太に、お茶を持ってきた鈴木さんが聞いた。
「あ、いや、大したことじゃ………」
「千雪さん、ごゆっくり。良太ちゃんも、働きづめだったんだし、ちょっとお休みしたらいいわ」
優しい笑顔を向けると、鈴木さんは自分のデスクに戻っていく。
「ありがとうございます」
良太はすぐにまたため息を吐いた。
「香坂先生ならって思ったのにな」
それを聞くと、千雪は「俺がこの作戦やってみよ思たんは、工藤さんの出方を見たかったからや」と声を落として言った。
「え?」
訝し気に良太は千雪を見た。
「思わぬやーさんらの登場で、ようわかったわ。香坂先生がえらい目に合うたんは気の毒やったけど、それも加賀センセと会うための布石やったんかもしれんし、ほんま、どこに何が転がっとるかやなんて、わかれへんもんや」
「はあ」
良太は相槌を打つが今一つの見込めず、どら焼きを食べる。
「とどのつまりはや、良太、ちゃんと工藤さんと向き合うて、話しせんとあかんで。ここんとこ冷戦状態なんやて?」
途端、良太はどら焼きを口に入れたまま動作を止めた。
「工藤さんがほかの誰かとどうかなっても、ほんまにええんか? ちゃんと自分の胸に聞いてみ」
鈴木さんに聞こえないようにと小声ではあるが、千雪の言葉は良太の胸をつく。
そんなこと、いいわけないし、ほんとにそうなったら、自分が立ってられるかどうかもわからない。
「だけど……」
「何が幸せかなんて、本人が決めるもんやし」
千雪もアスカから散々、二人を何とかしてと電話にメールで責められていた。
何とかできるもんならやっとるわ、と思いつつ、こうやって青山プロダクションまで出向いてきたというわけだ。
「ええか? 良太と工藤さんがどうなるかってとこに、この会社の命運がかかっとんのんやで?」
それから千雪はどら焼きを一つぺろりと平らげてお茶を飲み、「ごちそうさんでした。ほな、また、お邪魔します」と鈴木さんに告げてオフィスを出た。
「ったく、歯がゆいやっちゃ! 二人とも。三文小説並みの事件の方がよほど簡単に解決でけるわ」
ドアを閉めてから千雪はそう呟かずにはいられなかった。
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