「命運とかって脅すし」
良太は良太で、閉まったドアに目を向けたまま呟くと、ついでに大きくため息を吐く。
ちゃんと工藤さんと向き合うて、話しせんとあかん。
千雪の言うことはよくわかるのだが、向き合うって言ったってなあ、と良太は少し冷めたお茶を飲んだ。
だって、結局さ、俺が好きだ好きだって工藤のあとをキャンキャン吠えながらついてきただけで、俺がやめたらフェイドアウトするだけってことじゃん。
俺が工藤に合わせて会おうとしなければ、現にここ何日も会うこともないし。
工藤にとっては俺はどこまで行ってもガキで、香坂先生みたいに対等に笑いあうとかないし、千雪さんみたいに信頼されて頼ってもらえるわけでもない。
工藤のことになると後ろ向きにならざるを得ない自分が、良太は情けない。
こんなの、俺がきついだけで恋でも何でもない。
やっぱり工藤のためを思うんなら、キャンキャン吠えまくるうるさい犬は退散した方がいいんじゃないかって思う。
ほんと、鴻池の言うことは正しかったってことだ。
フン、言っとくけどハエじゃないからな。
きっと、工藤が誰かと幸せになる可能性を邪魔してるだけだし。
だけど俺は研二さんみたいな、大人な割り切り方もできない。
やっぱり、工藤が誰かとどうかなったら、俺こそどうかなっちまいそうだし。
胸がキリキリと痛い。
所詮、工藤と対等とか、初めっから無理な話だったんだ。
何のかの言ったって、司法試験軽く受かってるし、ヤクザな叔父とか祖母とかいなければ、小田先生や荒木検事と肩を並べてたに違いないし。
良太はデスクに戻ると、不毛な思いを並べ立てるのをやめて、勢いよくキーボードをたたき始めた。
書類づくりに没頭していた良太は、プリントアウトしようとして、もうそろそろ終業時刻なのに気づいた。
ああクソ!
何か飲んだくれたい!
今夜は酒とつまみ買ってゆっくり風呂浸かってから、ボッチ酒で飲んだくれよっと。
誰かを捕まえて飲みたい気分ではあるが、工藤とのことを知っている周りの連中とは逆に話したくなかった。
そんな時、デスクの上に置いていた携帯が鳴った。
ワルキューレではないので、緩慢に携帯を手に取った。
天野さん?
「はい、お世話になっております」
画面には俳優の天野の名前が表示されていた。
何かあったのかな。
「今夜とか、忙しいですか? 俺、オフなんで、またちょっと飲み行きませんか? 結構静かなバー、見つけたんで」
良太には天野の誘いが天の助けのように思えた。
「あ、すみません、こっちの都合ばっかで」
一瞬、言葉を探した良太に天野が恐縮した。
「いや、とんでもない! 誘ってくださって嬉しいです。今夜、俺もちょうど空いてて」
「え、よかった、じゃ、代官山のホームでいいですか? 何時くらいに来られます?」
「えっと、七時には行けます」
携帯を切ると、良太は思わず笑みを浮かべた。
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