霞に月の116

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「佐野さん、もてるからな」
 宇都宮もそんなことを言った。
 工藤とほぼ同年代の佐野はイケメンだし魅力的な存在で、あちこちのドラマをかけもちするくらいだし、良太もそれはわかるような気がした。
「でもまさか木村さんがねえ」
 ハプニングでしばらく離脱するかも知れない木村の代わりを探さなくてはならなくなった柿沼もため息をついた。
 工藤はと良太が探すと、坂口や監督と話し込んでいる。
 こんなトラブル、俺だけだとこうも簡単に解決できたかどうかわからないな。
 良太はさすが鬼の工藤、と心の中で言ってみる。
「すげえ迫力でしたね、工藤さん」
 森村がボソッと言った。
「あっという間に現場まとまったし」
 早速次の撮影が始まり、宇都宮が車を降りた途端、小笠原が運転席に飛び乗ったところをカメラが追って行く。
 いつの間にか雨もやんでいた。
「今夜は割と早めに終わりそうですね」
 休憩時間になると、コーヒーを配っていた森村が良太にもカップを渡した。
「そうだな。雨止んだけど、やっぱちょっと肌寒いし」
「坂口さん、早いとこ終わらせて飲み行く気満々だし」
 良太としてはそれはちょっと勘弁してもらいたい気分だったが、工藤も行くのだろうか。
「工藤さんも仕事メチャハードだったのが、ちょっとハードくらいになったのかな。良太さんもここんとこ別行動ばっかだったし、よかったですね」
 森村はそんなことをこそっと良太に言ってくる。
「そういえば、今更ですけど、あの時良太さん倒れてて、俺、焦ったんですけど、すぐに工藤さん現れて、良太さん連れてっちゃったし、結局、頭打ったりしてなかったんですよね?」
 良太は森村に問われて、え? と振り返った。
「工藤さんが……?」
 どういうことだ?
 病院で気が付いた時、確かに工藤はいてくれたけど……?
「工藤さんが行っちゃったあと、香坂先生は千雪さんが送ってったみたいで、顔怪我してたし、大丈夫かなって思ってたんだけど、千雪さんから、香坂先生のこと聞いてます?」
「え、ああ、加賀医院に連れてったって、千雪さんが」
 森村と香坂拉致事件の後話をするのは初めてだったと良太は思い返す。
「でも、工藤さん、ああみえて良太さんのことやっぱメチャ大事にされてるんですね。あの時もわき目も降らずに、良太さんに駆け寄ったし」
 そんなこと、俺は知らない。
 何だよ、それ………。

 


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