「でもさ、佐野さん、これが初めてじゃあないからさ、奥さん、今度という今度は三行半かもねえ」
松下が感慨深げに言った。
「しょうがないんじゃない? ロケ現場で修羅場とか、あり得ないし。最近不倫には厳しいものがあるし」
杉本が断罪する。
「でもさ、付き合ってても、結局わからないもんだね、本音のところは」
ふうっと松下がため息を吐いた。
「なんか、日本て、空気を読み取れっていうか、そういうとこあるだろ? 俺、あの感覚が最初わからなくてさ。でも、やっぱ究極、言葉にしないとダメになることはあると思う」
森村の言葉に、良太は反応した。
言葉にしないとダメになる、か。
そうだよな。
俺が口を閉ざすと、工藤と俺の間に何のコミュニケーションもなくなるのな。
こうして、背後に気配を感じていたとしても、テレパシーでもなければ、思いなんかつたわりゃしない。
千雪さんも、そういうことを言いたかったんだろうけど。
「そうだ、モリーはどうなの? ソフィだっけ? うまくいってる?」
松下が聞くと、森村の顔がぱっと明るくなる。
「こないだ、ディズニーランド行った! すごく楽しかった」
「いいなあ。でも、T大の院生とか言ってたよね? そんな秀才さんと、話合う?」
「別に、それはそれで、話してることはみんなとおんなじだし」
森村はちょっと小首を傾げる。
「あたしは相手がT大とかって、ちょっとダメかも。なんか頭のデキが違いすぎるっていうか、前いた会社に、いたのよ、もろ秀才メガネのT大卒って人。なーんか人のこと見下してて、やな感じだったんだ」
そう言うと杉本はビールのジョッキを空ける。
「俺も、彼女のが頭よくて、大学もランク上とか、付き合いづらいかなあ」
阿川が頷いた。
「ええ、阿川なんて、そしたら、彼女作るの無理じゃない?」
杉本がからかい、「何だよ、それ!」と阿川が抗議すると、みんながわっと笑う。
「でもさ、良太さんもT大だったよね?」
森村がそう言って良太の顔を見た。
「え?」
またも意識を工藤に飛ばしていた良太はぼんやりと顔を上げた。
「え、うそ! 広瀬さん、T大?」
ちょっと遅れて杉本が驚いた。
「広瀬さんが? まさか」
阿川や平瀬も目を丸くして良太を凝視する。
「ってか、ぜんっぜん、そういう感じないし、広瀬さん!」
「だからいろんな人いるし、大学だけで判断しない方がいって」
喚く松下に、森村が言った。
「若者たち、盛り上がってるねえ」
良太の背中合わせに座っていた宇都宮が振り返って、唐突に割り込んだ。
「何? モリー、彼女できたの?」
すると森村は「はい!」と宇都宮に笑顔を返す。
「いやあ、羨ましいねえ。みんな、彼氏、彼女、いるの?」
「いませーん! 宇都宮さん、私立候補しまーす!」
松下が挙手して宣言した。
「ええ、私も!」
杉本まで松下に続いた。
「何、言ってんだよ、お前ら身の程を知れえ!」
平瀬や阿川がげらげら笑う。
そこでちょっとした言い争いが始まったのを横目に、「良太ちゃん、大丈夫? 何か、疲れてるね」と宇都宮は声をかけてきた。
「あ、いや、まあ、こんなもんです」
良太は無理やり笑みを浮かべた。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
