霞に月の39

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 土曜日は四時頃までドキュメンタリー番組の編集に顔を出していた良太は、慌てて会社に戻ってくると自分の部屋に上がり、シャワーを浴びて髪をざっと整え、夕べ選んでおいたスーツを着た。
 無礼講だと言われたし、ドレスコードも必要なさそうだったが、工藤が紹介してくれたテーラーで作った改まった会用のスーツに、工藤にもらったタイピンやカフスをつけた。
 沢村が見たらまた馬子にも衣裳とか言いそうだな、などと笑みを浮かべながら猫たちを撫でてやってから部屋を出た。
 ドアを閉めたところで携帯が鳴った。
「え、ひとみさん?」
 何だろうと思って電話に出ると、「もう一人追加お願い」とひとみは軽く笑った。
「天野くん、今朝スタジオであったのよ」
 もう身元さえ確かなら何人でもと思った良太だが、意外な名前を耳にした。
「わかりました。先方に伝えておきます」
 天野右京はパーティなど嫌いなのではないかと良太は勝手に思っていたのだ。
 一応藤堂と千雪に知らせたが、何も問題がなかった。
 今夜は土産なども特になくていいとは言われているが、良太としてはそのまま受け取るわけにもいかず、青山プロダクションからの差し入れとして前もってシャンパン十本ほどを届けてあった。
 工藤はスタジオに顔を出してから向かうというので、会社で待ち合わせていた森村と良太はタクシーを拾った。
 綾小路邸の門の前にくると、良太は携帯で千雪を呼び出して門を開けてもらい、玄関前でタクシーを降りた。
「でかいですね、こっちの屋敷も」
 スキー合宿に一緒に行った森村は、素直な感想を口にした。
 森村も今日は一張羅のスーツを着て気合を入れている。
 モニターを見ながら、門を開閉しているのは公一だ。
 いらっしゃいませ、と慇懃に出迎えたこの屋敷の執事、藤原の息子である。
「やあ、いらっしゃい。工藤さんは?」
 その横で藤堂がにこやかに参加者をチェックしていた。
「仕事先から直行するみたいです。すみません、お任せしちゃって」
「何の、イベンター藤堂の腕の見せ所だよ」
 少し声を落として藤堂が茶目っ気たっぷりに言った。
 参加者は四十名、男性の方が多いが、合コンでもないのでそれは仕方がないし、指輪をしているメンツも多いだろうと藤堂は付け加えた。
 玄関を入って右に行くと初釜で訪れた際、通された応接室のような部屋がある。
 今夜良太は左にある両開きのドアをくぐり、大きな広間へと足を踏み入れた。
 吹き抜けなので余計に広く見える。
 窓側や壁側にはテーブルや椅子が設えてあるが、壁にかかっている絵や壺や皿などがそこここに置いてあり、美術館みたいだ、と良太は心の中で思う。
 バカにされること請け合いなので口には出さないが。
 既に何人かが集っていた。
 無礼講とはいえ、ラフな出で立ちで来ているものはいない。
 


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