「や、最近、ダチと飲む機会もなくて、久しぶりなんですよ、肩の凝らない人と飲むの」
カパカパと二つのグラスに注ぎ分けて、天野は一つを良太に差し出した。
うっかり受け取った良太は、はあ、と脱力し、こうなったらと腰を据えることにした。
「じゃあ、あらためて乾杯」
グラスを合わせると、どうやら酒豪らしい天野はゴクゴクと美味そうに酒を飲む。
すっかり酔いも醒めた良太だが、そこまで強くないので一口二口飲む。
思いの外すっとのど越しがいい冷酒だ。
「あ、つまみ、何かあったかな」
天野はまた冷蔵庫のドアを開けると、「チーズしかないや。って合うかな」と言いながらナイフと皿と一緒に持ってくると、チーズの袋を破いて、皿の上でチーズを切った。
「これ、うまいですね」
良太はチーズをぱくりと食べる。
カマンベールチーズは意外に、すっきりした日本酒とよく合った。
「ほんといって、あの時、俺に決まったって言われて有頂天になってたら、土壇場でスポンサーの一声で、別の俳優に決まったって、ほんと、部屋帰って物に当たり散らしましたよ」
向かい酒でしかも家飲みで気が楽になっているせいか、天野も抱えていたものを吐き出した。
「あの頃の俺、まだここに来る前の狭いアパートで、金もないしって時だったから、ヤケ酒呷って。で、ドラマオンエアになった時、どんなやつに俺、負けたんだと思って見たら、すみません、気に障ること言います、てんでヘタクソな駆け出しの顔だけのヤツで、でもなんかすんげえ人気が出てるって話で、ほんとアホらしくてやってられないってしばらくバイトに専念してました」
天野が語っているのは、良太も気にしていた、以前、鴻池にやらせられたドラマのチョイ役の話だ。
今回、『検事六条渉』のキャスティングで、天野をリストアップしようとした時に、実はほぼ決まりだった天野を鴻池の独断で良太に替えたと秋山に教えられたのだ。
良太としてはもはや黒歴史と化しているドラマ出演だが、そんないきさつがある天野が良太のオファーを果たして受けてくれるのかと悩んだものの、ダメモトで依頼したところ、すんなり受けてくれたので、当時のことなど天野はさほど気にしていなかったのだ、と思っていた。
んなわけなかったわけか。
天野の話に良太は心の中で自嘲した。
「あのお、もしかして、エレベーターで初めてお会いした時、俺のことそん時のやつだとかわかったりしてませんよね?」
良太はおそるおそる聞いてみる。
「や、すぐにわかりましたよ。俺、あのドラマ嫌って程見ましたから」
「アハハ、だから、俺のこと睨んでたわけですね?」
「すみません、俺、話し下手だけど、すぐに顔に出るって船岡さんにも気を付けるように言われてるんですけど」
「いいんです、あの、でも、言い訳するようですが、あれって、実は、バックにあった謀略に使われたってだけで、ちょっと内容はカンベンですが、決して天野さんより俺の方がよかったからとか、そんな理由では決してないんです」
良太も酒の力を借りて、必死で言い訳をする。
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