「そうだ、香坂先生は?!」
良太はハッと思い出して聞いた。
「千雪が加賀のところへ連れてった。あいつはタフだから心配いらん」
「そうか……」
ふうっと良太は息を吐く。
結局一番無様なのは俺か。
毎度のことながら良太は自分に嫌気がさす。
「すみません。かえって迷惑かけて。忙しいのに、戻って休んでください。俺は朝イチで帰りますから」
良太は工藤の苦々しい顔を見て、余計な時間を使わせたことを怒っているんだろうと頭を下げた。
ったく、もちょい、腕っぷしがあればな。
あんな奴に殴られただけでこれじゃあ、何の役にもたちゃしない。
「せっかく立派な部屋を用意してくれたんだ、疲れたからソファで寝ていく。お前ももう寝ろ」
工藤は上着を脱いでネクタイも引き抜くとクローゼットにかけた。
看護師がやってくれたのか、良太のスーツもクローゼットにかかっているし、靴も置いてあった。
ソファには毛布も用意されているし、至れり尽くせりだ。
身体を横たえると、思い出したように疲れがどっと押し寄せ、工藤は目を閉じた。
良太も寝ようと思うのだが、随分眠った気がして、妙に目が冴えてしまった。
これじゃ、ほんと、意味ないじゃんね。
工藤が香坂先生を助けて送っていくっていうのが、正当なストーリーで大団円だったはずなのに、俺がぶっ倒れちゃったりするからだよな。
何かほんと、俺、工藤の足引っ張るだけで、無能の権化に思えてきた。
やっぱもっと鍛えなけりゃ。
モリーにああいう輩と対する極意とか、教えてもらおっかな。
ぐるぐる考えているうちにまた睡魔が降りてきて、良太は朝までぐっすり眠っていた。
翌朝、食事のあと、石川が顔を覗かせた。
「うん、顔色もよさそうだし、食事は全部食べたね。いい子だ」
石川は小さい子供にするように良太の頭を撫でた。
「あの、俺、もうアラサーなんですけど」
「え? ウソ、そうなの? どう見ても二十代」
カルテにだって生年月日は書いてあったろうに、本気なのか冗談なのかわからない先生だと良太は思う。
「まあ、もし、吐き気がするとか、めまいがするとか、何か変だなって思ったら、またおいで。なーんにもなければ、もう来なくていいからね」
そう言いながら、石川はまた良太の頭を撫でた。
「もう帰っていいのか?」
すっかり身支度が済んだ工藤は、イラつきを隠そうともせずに石川に聞いた。
「そうだな。一日二日は飛んだり跳ねたりはやめといた方がいいかな。あとは普通にしててOK」
あくまでも石川は良太に向ってそう言った。
「ありがとうございました」
ニコニコ笑っている石川に良太は頭を下げた。
良太が着替えているうちに工藤は支払いを済ませて部屋に戻ってきた。
「あ、俺、タクシーで帰りますから、仕事、行ってください」
工藤の仕事が気になって良太は言ったが、「俺も一度部屋に戻る」と工藤は言う。
何となく、会話が続かない。
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