霞に月の98

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 そんなことを考えながら、スケジュールを確認した工藤は、「明後日の午後一ならいいぞ。和食でいいか?」と聞いた。
「いいわよ」
「じゃあ、昼にどこに迎えに行けばいい?」
「じゃあ、大学に来てくれる? 正門のあたりまで行くわ」
「わかった」
 一つアポイントをずらす必要があるが、仕方ないだろう。
 クロエとの電話を切ってから、要リスケジュールのメールを相手に送る。
 そのあと珍しくゆったりと風呂につかりながら、工藤が考えていたのは良太のことだ。
 というより、ちょっと仕事を離れるとといつの間にか良太のことに意識が及ぶ。
 朝帰りが竹野と会っていたわけではなかったとしても、竹野とは何もないとは限らないとか、自分のやったタイバーを大事なものだと思っているのなら竹野とはどうなんだとか、要は初恋沙汰で頭をいっぱいにしている中坊かと自分で自分に突っ込みを入れるようなことをごまんと脳内で並べ立てていただけなのだが。
 だが、やはり介護問題が間近かもしれないようなオヤジと付き合っても良太には何の得もないだろうなどと考える。
 それより何より今回またしても組関係の争いごとに巻き込まれたのだ、もし万が一良太がと考えるだけでぞっとする。
 拉致されて怪我をさせられたクロエには悪いが、横たわっている良太を見た時、まさしく命が縮んだに違いない。
 息をしていることがわかっても良太のことで頭がいっぱいで、クロエに対して最低限の気遣いができたのが不思議ですらある。
 確かに以前、波多野に言われたように、良太になにかあったりしたものならそれこそ本物の鬼にでもなるだろう。
 とりあえず波多野と話して本人には気づかれないようにクロエにはガードをつけてもらった。
 今のところ問題を起こしている組関連には、良太についての情報はただの社員としか伝わっていないようだが。
 良太が自分から離れて行くのなら仕方がないと思いつつも、どこかで良太を手放したくないというのは己の業だろう。
 良太は明日もドキュメンタリーの撮影だったか。
 ここのところ工藤だけでなく互いに顔を合わせるのを避けているような気がしていた。
 映画のプロモーションは好調だ。
 明日は志村や奈々、それの檜山も伴ってスポンサー企業の社長と会食の予定だ。
 それが終われば映画関連では志村と奈々にいくつかテレビラジオの情報番組や雑誌の取材が入っているだけだ。
 あとは封切を待つのみで、工藤はしばらくネットプライムの仕事に専念するつもりだ。
 良太の方は六条渉シリーズのドラマで忙しくなるだろう。
 窓から見えていた月が陰り始めた。
 明日は雨になるか。
 いずれにせよなるようにしかならない。
 工藤はどうしようもない逡巡にきりをつけるように風呂から上がり、ビールを一缶空けた。

 


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