勝手にしやがれ!4

back  next  top  Novels


「十月の終わりだ……あの人に会って、自分でもマジかって疑ったんだが、ひと目惚れってやつ? それから何とかあの人と再会にこぎつけて、何度か会って………あの人も絶対、俺のこと好きだって、そう……思い上がってたのかもな………」
 沢村はじっと真剣な表情で聞いている良太に、言葉を続けた。
「古谷さんに言われて、昼の番組に出させられただろ? あの人、それ見て俺が野球やってる沢村だってわかったらしくて、突然、終わりだって言われて……」
「え、お前、自分のことその人に話してなかったのか?」
 良太は訝し気に沢村を見る。
 話さなくても、大抵テレビなどで知っている顔だろうと思うのだが。
「知らなかったんだよ、あの人、俺のことなんか。だから、俺は、それでいいと思ってた。野球選手の俺とかじゃなくて、素のままの俺を知ってほしいって……」
 沢村は自嘲気味に笑った。
「でも……野球やってるからって、そんな嫌わなくてもいいだろ。だったら、野球なんかやめるって言ったのに……」
 それを聞いた良太は優しく微笑んだ。
「自信家で傲慢な、天才スラッガーのお前にここまで言わせるって、どんなすごい人なんだよ」
「…スラッガー? フン、あの人にとっちゃ、俺なんか厄介なストーカーでしかないんだ!」
 沢村は拗ねまくって投げやり気味に喚く。
「くだらないジョークは置いといて、お前がそんなに一生懸命になってるんだ、彼女に伝わらないわけないだろ?」
「……てめ、いい加減なこと言いやがって、これでいい厄介払いができるとか思ってるんだろ? そうはいかねぇからな。そのうちお前も工藤のオヤジに放り出されたら、俺が拾ってやらなきゃならねぇんだ。ちゃんとわかってるから、安心しろ!」
 ハハハと笑う沢村を呆れた顔で良太は見つめた。
「だぁから、そんなこと考えなくていい!」
「お前を好きなのは変わりはないんだ。……けど、あの人は、ひどく…滅茶苦茶……好きで……」
 沢村の生一本なところは、自分と似通っているところがあって、その思いは本物なのだろうと良太は思いやる。
「…だったら、こんなとこで飲んだくれて、俺なんか呼び出すより、何で彼女のとこへ行かないんだ?」
「……彼女じゃないって……」
 その時、良太の携帯が鳴った。
「あ、ヤギさん、すみません、……え? ええ、それはそっちの方がいいかと……」
 下柳からの電話で、一瞬仕事の方に頭が切り替わった、その時だ。
「………だから、俺の話なんか聞こうともしてくれねぇんだよ、佐々木さん……」
 まくしたてる下柳の話に混じって聞こえたキーワードに何やら違和感を覚えて、また仕事モードから沢村へと良太の意識が引き戻される。
「…え? 何て言った? 今? あ、いえ、こっちの話で、すぐ戻りますから、はい、大丈夫……だと、思うんですが……」
 良太はボソリと口にした沢村の言葉が気になって、話しながら沢村を見た。
「悪かったな、仕事中、呼び出して。もういいから、行けよ」
 沢村は携帯でまだ話している良太を立ち上がらせ、そのままドアへ良太を引っ張っていく。
「……おい、ちょ、待てよ、あ、一旦切ります!」
 良太はドアまできて携帯を切ると、真面目な面持ちで沢村を見上げた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます