勝手にしやがれ!5

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「お前……」
 良太は頭の中がこんがらがって、次の言葉が出てこない。
「いいから、行けって」
 沢村はドアを開けた。
「お前こそ明日、ちゃんとトークショー行けよ?」
「わかってる」
「話はまた今度聞くから」
「いいって……」
「……よくない! また連絡する」
 きっちり理解できていないものの、これは放っておけない事案だとだけは良太にも思われた。
「ああ……わかった」
 苦笑いする沢村はドアを閉めたが、良太はしばしその場を動けずにいた。
「佐々木さん……とかって、あいつ言わなかったか? 俺の聞き違い………?」
 混乱した頭を抱えながら車でスタジオに戻るなり、下柳の怒号が響き渡った。
「てめぇら、やる気ねぇなら、とっとと出て行け!」
 スタジオの中は、どんよりと不穏な空気が漂っていた。
 下柳がここまで、どこぞの社長のように怒鳴り散らすのは割りと珍しいことだ。
 みんなとっくに疲労がピークを越えていたのだろう。
 出て行く者はいなかったが、いつもは冗談ばかり言っているスタッフも、ムスッとした顔を隠さないでいる。
「ヤギさん、ちょっといいですか?」
 下柳が良太を見た。
「ここいらで一息入れませんか? 確かに時間はないけど、みんな疲労が溜まりきってこのままじゃよくはならないですよ。ちょっと休んで少し角度変えて見てみるとか」
 すると下柳はニヤリと笑った。
「いっぱしの台詞はくようになったもんだな、良太ちゃん」
 下柳は、よし、と言って立ち上がった。
「今夜はとりあえずここまでってことで、みんな、明日はアタマすっきりさせて出てこいよ」
 下柳の言葉で、スタッフ全員のそのそとスタジオを後にした。
 午前一時になる前には良太も久々まともに部屋に戻ってこれた。
 疲れきっているのはわかっているのだが、頭は沢村のことで妙に冴え渡っている。
 他のスタッフのようにスタジオに缶詰というわけではないから、一日に一度は会社に戻るし、その時自分の部屋に上がってナータンにキャットフードをやったり、世話はしていたものの、何日もあまり相手をしてやっていないので、ナータンはいつも以上にスリスリして離れない。
「もちょっとで終わるからな」
 撫でてやって、やっと炬燵の定位置にナータンがおさまると、良太は風呂に入ろうとバスルームのドアを開ける。
 それにしても、ここは俺の部屋か? と日に一度は疑ってしまうくらい変貌してしまった部屋には未だに慣れていない。
 部屋を勝手に模様替えした犯人、いや、お歳暮のお返しとか言ってはいたが、工藤とはクリスマスの朝別れて以来、ろくに顔も合わせていないのだ。
 二十九日に会社の納会でちょっと会えるだろうと思っていたのだが、工藤の渡欧予定が二日早まったため、その分工藤のスケジュールも手一杯となってしまったし、今日良太が午後に会社に戻った時もすれ違いだった。
「明日だっけ、発つの」
 ヨーロッパに発つ前に、ちょっとくらい会いたかったな。
 
「でも……野球やってるからって、そんな嫌わなくてもいいだろ。だったら、野球なんかやめるって言ったのに……」
 
 身体を湯に沈めてほっとしたところで、ふいに沢村の言葉がよみがえる。
 あんな情熱的なセリフが出てくるような恋人だったらな。
 恋人同士なんてとてもいえないし、俺と工藤って。

 


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