「白糸の滝まで行ったの?」
良太が聞くと、「ええ、とっても清々しくてよかったわ」と百合子が言った。
「写真がな、イマイチだったが」
良一が携帯を取り出した。
「どれ?」
良太がのぞき込むと、良一は滝の前で三人でポーズを取っている写真と、滝そのものを移した写真を見せた。
「まあまあじゃん」
三人とも楽し気に笑っていることが何よりだ。
良太はタクシーを呼んだだけだが、三人はゆっくり観光できたらしい。
「皆さん、お待たせしました。お蕎麦、できました!」
その時、厨房から出てきた森村が声を張り上げた。
「戻ってこないと思ってたら、手伝ってたのか」
ちぇ、俺には邪魔だとか言ったくせ。
森村は要領がいいから、平造も使いやすいのだろう。
ちょっと拗ねた良太だが、「っと、工藤さん、呼んでこなくちゃ」と二階へと階段を上がった。
一応ノックしたが、返事がないので、「工藤さん、お蕎麦、用意できましたよ」と言いながらドアを開けた。
するとてっきり休んでいるものと思っていた工藤は窓際で携帯で話をしている。
「休むって言ったのにこれだからな」
仕方ないので、良太は工藤の電話が終わるのを所在なく待っていた。
「ちょっと待て」
ようやく工藤は電話を中断し、「何だ?」と良太に聞いた。
「お蕎麦できたんで、電話終わったら降りて来てください」
「ああ、わかった」
また工藤が電話に戻ると、良太は部屋を出た。
「ワーカホリックってのは、工藤さんのためにあるような言葉だよな」
ブツブツ口にしながら下に降りて行くと、既に秋山とアスカも来ており、アスカはちゃっかりまどかや万里子らと並んでリビングのテーブルに陣取っていた。
平造と森村が蕎麦とそば猪口、薬味、湯のみと箸がセットされたトレーを持ってそれぞれに配っている。
「良太さんも座ってください。すぐ持ってきますから」
「サンキュ」
手際よくつゆの入った徳利をトレーの間に置きながら、森村は厨房に戻っていく。
ほぼ蕎麦がみんなにいきわたった頃、工藤が降りてきた。
「お疲れ様です」
工藤に気づくとみんなが声をかけた。
「俺を待たなくても、どうぞ皆さん召し上がってください」
すると一斉にいただきますのあと傍にとりかかる。
良太もお茶が入った急須を二つ持ってきて、テーブルに置くと、逆側の工藤の隣の席へと向かう。
工藤を挟んで森村も席に着いた。
既に、やっぱ手打ちって違う、とか、のど越し最高、などと口々に言いつつ、みんな蕎麦を味わうのに集中している。
「うわ、美味い! 手打ち蕎麦なんて、俺、初めて食べる」
森村も感激しながらひたすら箸を動かした。
平造が打ったというだけでなく、蕎麦は味わい深く、美味かった。
量も十二分にあったが、「お変わりは早いものがちでーす!」などと森村が言ったので、井上や秋山が、万里子やアスカのために立ち上った。
工藤も何も言わずに蕎麦を平らげた。
「美味かった! 平さん、蕎麦屋もやれそうですね」
良太が言うと工藤は苦笑した。
「平造は徹底しているからな、美味いと思うものが打てるまでやったんだろ」
平造らしいと、良太は思う。
何しろ、フレンチもイタリアンも和食もとことん極めて、どれも本格的なものを作る。
昔は料理人になりたかったという平造だが、工藤の会社にいながら、しっかり料理人している。
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