「るさいな。お前らはどこか行ったのかよ」
「まあ、万里子が美術館にいるうち、写真撮ったり?」
「え、一人にしていいのか?」
「子どもじゃあるまいし。このあたりゲーノー人も吐いて捨てるほどいるし」
井上は苦笑しながら良太の隣に腰を下ろした。
「コーヒーいれました」
キッチンから森村がマグカップを手にやってきた。
「あれ、井上さんもコーヒー飲みます?」
「おお、ありがたい」
「じゃ、これどうぞ。俺、入れてくるんで」
「悪いな」
森村はテーブルにコーヒーを二つ置くと、またキッチンに戻っていく。
「工藤はよ?」
「部屋にいる。滅多にない休みだから、ほっといてやらないと」
九時頃朝食には降りたが、工藤はまた部屋に戻っていった。
良太が言う通り、何もしなくていい日というのが、工藤にはなさ過ぎて、こんな時でないと、身体を休めることもできない。
「だな。いい年だし、動きすぎだろ」
コーヒーを啜りながら井上が言った。
自分で工藤のことを何だかだ言うのはいいが、他の人間に言われると、良太は気になってしまう。
「お昼さ、平さんが蕎麦打ってるから、井上も相伴になれば? 万里子さんも呼んで」
良太が提案すると井上は身を乗り出すように目を見開いた。
「おお? ほんとかよ。何、平さんそんなこともできるわけ?」
「最近、うどんとかも自分で打ち始めて、吉川さんに、パスタも打ってよなんて言われてるみたい」
「本格的じゃん」
「そんなにたくさんじゃないから、ここに顔出した人だけに言ってるんだけど、もうアスカさんや鈴木さん親子は予約してったし、奈々ちゃん一家とうちの親と亜弓も来るって言ってる」
つゆももちろん平造が出しからこだわったものだし、何しろわさびも安曇野の知り合いから分けてもらった本場のものだ。
「よっしゃ、万里子、呼ぼう」
井上は携帯を取り出した。
「そろそろ工藤さんにも声かけた方がいいよな」
蕎麦なら和食党の工藤も好きに決まっている。
手伝おうかと良太が平造に言ったが、むしろ邪魔と言われて、良太は厨房には近づかないようにしている。
「お手伝いした方がいいわね」
ちょうどその時、娘のまどかさんと鈴木さんがやってきた。
「俺には邪魔だから向こうへ行ってろって言われましたけど」
すると鈴木さんはフフフと笑いながら厨房に向かった。
「ショッピング楽しめました?」
「なんかすごい人でしたよ。東京にいるみたい」
声をかけた良太にまどかが言った。
「ですよね~」
良太は苦笑した。
その時、両親と亜弓がやってくるのが見えた。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます