春雷11

back  next  top  Novels


「何か最近、秋山さん、ちょっと変じゃないかなと思って」
 良太に向き直り、アスカが言った。
「秋山さん?」
 アスカの口から意外な方向の話が出たので、良太は聞き返した。
「そう。スキー合宿から帰ってから」
「ええ……?」
 帰ってからまだ二週間も経っていないし、秋山と顔を合わせたのも数回なので、良太には記憶を辿っても心当たりがない。
「いや、いつもの通り、クールな感じですけど、変ってどう変なんですか?」
「何か最近、仕事以外の電話、ちょくちょくしてて、あたしが撮影に入ってる時とか」
「それは、秋山さんにもプライベートな電話くらいはあるのでは。ってか、何で仕事以外ってわかるんです?」
「表情でわかるわよ、相手が仕事相手かどうかくらい」
 それはかえってすごい、と良太はアスカを見た。
「一度聞こえたのよ、佐藤さんって」
「佐藤?」
 その名前には良太も聞き覚えがあった。
 秋山に関する佐藤といえば、確か、スキー合宿の時ゲレンデで出会った、秋山のクラスメイトだと言っていた女性が佐藤だった。
「あの人じゃないかと思って。ほら、スキーで会ったじゃない? 秋山さんのクラスメイトとかって」
 全く聞いていないように見えていたアスカだが、しっかり覚えているらしい。
「だって、佐藤なんて、全国苗字ランキング一位ってくらい、掃いて捨てる程いますよ?」
 その時、良太がふと思ったのは、アスカが、秋山のクラスメイトの佐藤さんのことを何故気にしているのかだった。
「スキー合宿からの流れで秋山さんに佐藤さんっていえば、あの人しか考えられないわよ」
「仮に、そうだったとして、秋山さんの何が変なんです?」
 良太はじっとアスカを見つめた。
「それは、あれよ、高校のクラスメイトに久しぶりに会って、何度か電話してるっていえば、わかるでしょ?」
「焼けぼっくいに火、みたいな?」
 亜弓が口を挟んだ。
「それよ」
 そういうとアスカは眉を顰めて、グラスのワインを一気に飲み干した。
「秋山さんが電話してたのが、あの時の佐藤さんて女性ってこと?」
 良太は改めて聞いた。
「そう。それもちょくちょく」
 アスカは頷いて、また自分のグラスにワインを注ぐ。
「でも、確かめたわけじゃないんでしょ?」
 そう聞いてから良太は、もしそれが事実として亜弓の言うように、焼けぼっくいに火みたいなことになっていたとしても、だからといってアスカがどうしてワインをがぶ飲みしているんだ、という疑問にぶちあたる。
「あたしはさ、秋山さん、てっきり宇都宮さんラブだと思ってたから」
「は?」
「え?」
 耳を疑って良太だけでなく亜弓までがアスカを凝視した。
「だって、秋山さん、宇都宮さんが良太に告った時さ、宇都宮さんのこと、素でもカッコいいって言ってたんだよ?」
 この発言に反応したのは亜弓だ。
「それ、どういうことですか?」
 何故、アスカとそれに秋山がそんなことを知っているのかと良太も仰天した。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村