春雷21

back  next  top  Novels


「わかった。やっぱりお母さんたちの反応を見て、話してみるといいよ、お兄ちゃん」
「え、いや、だから………」
 俺と工藤は違うんだとは、口に出してまたアスカや沢村に何か言われるも嫌だったので、良太は言葉を飲み込んで小さくため息を吐いた。
 いずれにせよ沢村と佐々木さんのことは、二人で話すべきことで俺にはどうしようもできないが、アスカと秋山のことは少し様子を見なければならないだろう。
 キャットタワーの上の方に避難している二匹のために、水とカリカリを器に置いてから、良太は三人を送るために部屋を出た。
「本宮さんによろしく」
「ありがと、また連絡する」
 ホテルのエントランス前で助手席の亜弓を降ろすと良太はアスカのマンションへとハンドルを切る。
「今日は午後から?」
「うん、三時から」
 大丈夫かなあ、と若干の不安を覚えながら、良太はマンションに入って行くアスカの後ろ姿を見送った。
「お前、酒残ってないのか?」
 ミラーで見やると、後部座席でふんぞり返っている沢村の顔はキリリと清々しさすら窺える。
「あれしき」
 確かにこのガタイだからな、と良太は苦笑する。
「佐々木さん、仕事でてんぱってるんだから、終わるまでちゃんと見守ってやれよ」
 定宿にしているホテルの駐車場まで沢村を送ると、「まだ、許可降りねえんだよな、佐々木さんの」と沢村が言った。
「俺はさ、やっと自分の帰るところを見つけたつもりで、ちょっとした部屋を作りたいだけなのによ」
「ああ、お前が買った土地に家を建てるってやつ?」
 沢村は無言のまま頷いた。
「これからずっとって思ってるんなら、もうちょいじっくり佐々木さんに話してみればいいだろ? 先走ってぎくしゃくするより」
「……まあな」
 これからずっと、か。
 家って言えば、母さんや父さんにも、仮住まいじゃない家、建ててやれればなあ。
 建てるんじゃなくても、前のうちみたいなボロ屋でも買うとか。
 いずれにせよ俺の借金返してからだよな。
 沢村を降ろして、会社へと車をUターンさせる。
 ま、俺と工藤に、この先なんてあるかどうかわからないしな。
 今のあの部屋だって、いつまでいられるかもわからないんだし。
 大体、俺が好きだなんて言ったから、ずるずると続いているってやつだし。
 アスカの涙を思い出すと、もしか同じような一方通行だったら、この先きついだろうと思う。
「どうやって、秋山さんから本心聞き出せるかだよな。あの人、ほんっとポーカーフェイスだから」
 宇都宮さんが俺に告ったことなんか知ってたくせに、おくびにもださなかったぞ、あの人。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村