月で逢おうよ4

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「そうね。ぐーたら、飲み会ばっかやってる場合じゃないと、常々思ってはいたのよ」
 垪和もうんうんと頷いた。
「やってみるか。だがちょっとやそっとじゃできないぞ。こいつら、てんで躾がなってないし」
「ああ、俺、心当たりある。躾の達人に。ちょっと頼んでみるよ」
 当時の代表で、院に進んだ加藤も話にのったことで、賛同した面々が活動に向けて動き始めた。
 犬たちにはセラピー犬としての適性検査を受けさせようということになり、移動することに弱い猫たちは、それぞれの性格も把握しておかなくてはならない。
「うちは家族全員、動物狂いだからな」
 わはは、と笑う検見崎の家で犬たちの躾をしてくれている調教師に頼んでトレーニングの仕方を教わったり、検見崎家の動物の主治医に情報を提供してもらったりと、検見崎の人望かどうかは知らないが、ありがたくも協力をあおぐことができた。
図体は大きいくせに甘えん坊のビッグも二度目でめでたく検査をパスした。
 にわかづくりながら準備を進め、勝浩がアポをとってきた施設を月一で訪問し始めて現在に至る。
 学生の分際でベンツを乗り回す検見崎の家はかなり裕福らしいが、血統書のついているような犬や猫だけでなく、保健所や保護施設からもらってきた犬も何匹かいるという。
 ラブはそのうちの一匹だ。
 夏休みの今日も、杉並区の老人ホームを訪問してきたところだが、参加希望者が多く、検見崎家からラブも借り出されたのだ。
 一瞬の土砂降りで、戸外にいた犬も人間もずぶぬれになった。
 タオルでからだを拭いてもらった犬たちは、各々お気に入りのスペースに気持ちよさそうに寝そべっている。
「じゃあ、我々も、解散しよっか。今日の当番さんの美利ちゃんと春くん、あとはよろしくってことで」
 垪和の言葉に、みんなが疲れた顔でうなずいた。
 
   

 九月も半ばを過ぎたにもかかわらず、続く猛暑は半端ではなく、通り雨もたいした清涼剤にはならなかったようだ。
 クラブハウスを出た途端、むせるような木々の匂いが熱気を伴ってまとわりついてくる。
 でも充実しているよな、と勝浩は心の中で呟く。
 犬や猫たちも、会のみんなもいい関係だし、ホームや施設に入居している人たちが喜んでくれているのを見るのはとても嬉しいし。
 大学に進学してから親元を離れ、都内で一人暮らしを始めた勝浩だが、大家は庭にくる野良猫たちにご飯をあげたりする動物好きの優しい老婦人で、離れを借りている勝浩が犬を飼いたいといっても、快く許してくれた。
 検見崎の紹介で始めた編集部のバイトも時々忙しいが、何の不満もない。
 何もかもが、うまくいっているはずだ。
 けれど、何をもっても満たすことのできない、心の中の空洞を時折感じることがある。
 どこかでかなうはずのない期待をしている自分がいるからだ。


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