月澄む空に113

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 ネットプライムはニューヨークに本社があり、そこへ研修に行けるのなら、大いに勉強にもなるだろうし非常に栄誉なことなのかも知れない。
 普通なら大喜びのはずの話だが、良太には降って湧いたようなこの話を素直に喜ぶことができなかった。
 沢村の心配してる場合じゃなかったみたいだな。
 冴え冴えとしてきた頭で良太は思った。
 そういえば、前に、沢村が俺を連れてアメリカに行くって言った時も、へえ、くらいな対応だったもんな、工藤。
 でも今度は俺をニューヨークに追いやって、君塚さんを入れるつもりなんだ。
 無理やりまずい朝飯食べさせたりするうざったいやつなんかより、有能なプロデューサーの方が会社にも工藤にもいいに決まってる。
「ニューヨークなんて、うちの親びっくりしますよ。でもちゃんと猫たちも一緒に住める部屋ありますよね? そうすっと、幸か不幸か、また沢村と向こうでしょっちゅう顔合わせることになるかもな。でも俺の英語で大丈夫なんですかね? やっぱちょっとレッスン受けた方がいいですよね。モリーに頼もうかな」
 一言口にすると次から次へと捲し立てるように良太は言った。
「おい、ちょっと待て、良太」
 工藤が言葉を挟む。
「沢村とっていったいなんのことだ?」
「実は沢村のやつ、レッドイーグルスの監督にMLBに来いって再三誘われたんだけど、このシリーズが終わったら正式に球団に申し入れがあるみたいで」
 それを聞くと工藤は眉を顰める。
「だからお前は喜んでニューヨークに行くってか?」
 良太は持っていたグラスの酒を一気に空けた。
「君塚さんみたいな有能なプロデューサーがうちに入れば、会社も安泰だし、俺みたいな半人前のお荷物を厄介払いするには渡りに船な話ですよね、ネットフリックスなんて」
 嫌な言い方だと自分でも思いながら良太はつい口にした。
「はあ? お前、何を言ってるんだ? 何で君塚がうちに入るんだ? 酔っぱらいの戯言なんか真に受けるバカがどこにいる」
「どうせ俺はバカですから。お休みなさい」
 それこそこれ以上バカなことを口走る前に退散しようと、良太は工藤に背を向けた。
「こら待て! 良太」
 工藤は良太の肩を掴んで振り向かせる。
 良太はその手を振り払うとムスっとした顔で工藤を睨みつけた。
 そんな良太を見て、工藤は一つ大きく息を吐く。
「いい加減にしろよ。何が厄介払いで君塚だ」
 どうやら酔っ払った君塚の話をまともに受け取って、ちょうど浮上したニューヨーク行きに絡めて曲解したらしいと、工藤は良太を見据える。
「ニューヨークなら森村の庭だろうし、森村はネイティブだろうが、英語力より仕事のキャリアがあるのはお前だし、お前と話しをしたネットフリックスのCEOやスタッフがお前にぜひ来てもらいたいと言ってきたんだ」
 順序立てて説明された良太は、ようやく工藤の言う意味を理解する。

 


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