月澄む空に145

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「え、でもオフとかに帰ってくるんでしょ?」
 浩輔が思い切り端折って佐々木に聞いた。
「俺にはオフとか、ないで?」
 すかさず佐々木がシャープに返答する。
「あ、いや、そのう、盆暮れ正月?」
 暗に沢村のオフの時には一緒に帰るのだろうという質問を、浩輔は言い直した。
「仕事の都合で帰るかもってくらいやろ」
「えええ? そうなんですか? 河崎さんに頼んでプライベートジェット飛ばしてもらいますから、もっと帰って来てくださいよ」
「そんなん頼まんでええ」
 スパッと言い返されて浩輔はちょっと肩を竦めた。
 それ、俺が乗って帰りたいよ、と心の中で良太はこそっと思う。

 
 

 『大いなる旅人』の関係者が東京に戻ってきたのは翌日のことだった。
 シリーズのドラマが回を重ねるたび、志村は演技に深みが出てきたし、奈々はなかなか堂に入った演技をするようになった。
 映画化されたこともその一助になったかも知れない。
 あれだけ業界に入ることに反対していた奈々の父親も、最近では奈々の出演するドラマや映画を近所の人や知り合いに触れて回るくらいになった。
 もちろん、大学を卒業するまで家から通うことという厳しい約束をしっかり守って頑張ってきた奈々の努力もある。
 それにやはりマネージャー兼運転手兼ボディガードのような谷川の存在も大きいだろう。
 真面目で固い谷川は奈々の両親とも仲がいい。
 ちょうど、その夜、良太はスタジオ撮影の後、千雪や京助らと会うことになっていたのだが、羽田に着いた工藤から連絡が入り、「どこで会う? 俺もあいつらに用がある」と言う。
「麻布の会員制バーだそうです。『Ola』っていう店です。七時頃には行ってるらしいです。京助さんに言っておきますね」
 やつらに用って何だろうと良太は思いつつ、千雪に電話を入れた。
「工藤さんが? フーン、京助の名前言うたら入れてくれるわ」
 会員制バーとか、セレブ御用達とか、敷居が高そうな店は避けたいところだが、プライバシーに配慮してくれるとなれば、そういうところになってしまうのだろう。
「今日、終わったら飲みに行くんですか?」
 スタジオの外で電話をしていた良太だが、ちょうどトイレから戻ってきた天野が聞いた。
「いや、スポンサー? みたいなもん?」
「ああ、プロデューサーって大変ですね。俺やっぱ役者やれてよかったですよ。営業とか人と関わる仕事とか俺絶対苦手だし。仏頂面してたら成績も上がらないし」
 良太は笑った。
「天野さんはやっぱ、役者が天職でしょ?」
「え、良太さんにそう言ってもらえると、俺、頑張れる気がする」
 良太とはこうして笑顔を見せて話したりする天野だが、誰とでもというわけではなく、どうも人によっては確かに仏頂面を見せていることがあるのを、撮影に立ち会うようになってわかってきた。
 まあ、誰とでもとか八方美人よりはずっといいかも知れない。


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