「そうだ、良太さん、ニューヨーク行く前、壮行会やりましょうよ」
天野が語気を強めて言った。
「そんな大げさな。たかだか三か月なのに」
「壮行会という名を借りた飲み会」
真面目にそんなことを言う天野に、良太はまた笑った。
「わかりました」
「約束ですよ」
「その頃って、ドラマのオンエアも終わって、結果が出てる頃だよなあ」
何気なく言った良太に、「う、そういう現実的なプレッシャーははその時になってからでいいですって」と天野が眉を顰めた。
「まあ、満を持してのドラマ化だから、局としてもそこそこの視聴率取りたいでしょうけど、俺としてはいいドラマになっていると思うので、少しでも多くの人に見てもらいたいってだけですよ」
「役者はそろってるんですけどね」
「言いますね~」
断言する天野に、良太は笑顔で頷いた。
良太は千雪と彼らの住まうマンションの前で待ち合わせ、セレブや芸能人御用達の会員制バー『Ola』には歩いて向かった。
「二度ほど行ったけど、俺はあんまり好かん店や。京助だけやのうて速水さんとか、理香さんとかが常連らしい」
「なるほど速水さん、千雪さんの天敵ですもんね」
「フン、天敵の足元にもおよばんわ」
相変わらず千雪は速水のことは毛嫌いしている。
まあ、顔を合わせれば嫌味の応酬だから傍目にも仲がいいとは言えないが。
良太は苦笑して、千雪に歩調を合わせて夜の街をゆっくりと歩く。
「香坂先生もきはるみたいやで」
「あ、先生、お元気ですか? 随分お会いしてないけど」
良太には香坂はいつぞや一緒に敵陣に捕まったことで同志のような存在だ。
「元気なんてもんやないで。まあ、いつもモルグに籠ってはるけど」
工藤がやって来た時には、店の一角には京助の知人友人が揃っていた。
「高広、久しぶり」
そう言って手を振る香坂の横には、加賀がしっかり陣取っている。
京助と千雪、京助の隣には速水がふんぞり返っていた。
良太は千雪の横に座って、「お疲れ様です」と声をかけた。
「何の集まりだ? 加賀まで」
良太の横に腰を下ろした工藤がジロリと視線をやると、加賀は「たまには俺も巷に出てみたりしますよ」とグラスを傾ける。
「どうってことはない、ただの飲み会だ」
「え、スキー合宿の話じゃないの?」
京助がぼそりと言うと、香坂が聞き返す。
「だが、俺とあんたがモルグを留守にしたら、誰が留守を守るって?」
「教授と研修生がいるじゃない。牧ちゃんの休みと重ならないようにすればOK」
どうやら人手不足はどこも同じらしい。
そうか、スキー合宿、もうそんな話が出る頃か。
良太はふと感慨深く息を吐いた。
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