月澄む空に147

back  next  top  Novels


「研修は四月からやろ? スキーは行けるな」
 千雪が良太に聞いた。
「え、え、まあ、そうですけど、でもその頃になってみないとわからないかも」
「とりあえず、予定しとったらええやろ。モリーも、二、三日のことやし」
「はい」
 四月の研修のことで頭がいっぱいだったが、実際まだ何か月もあるわけで、スキー合宿に参加できない理由はない。
「そうそう、ニューヨーク、行くって? 良太ちゃん」
 香坂が良太に聞いた。
「はい、研修で四月から三か月」
「あら、そう、三カ月でも良太ちゃんいないと寂しいわね。部屋とかこれから探すの?」
 ほとんど顔を合わせない香坂でも、大抵三か月と聞くと長く感じるのだろう。
 じゃあ、二年向こうにいるなんて沢村に佐々木さんが聞かされたら、やはり別れを思ってしまうのかも。
「いえ、京助さんにアパート借りることになってて」
「アパートなんか持ってるんだ? 京助」
 香坂は京助に振る。
「母親が使ってたアパートだ」
「部屋も多いからお友達も十人は呼べるぜ」
 速水が茶々を入れた。
「いや、遊びに行くんじゃないんで」
 すかさず良太は言い返す。
「ボストンじゃなかった?」
 香坂が聞いた。
「ボストンには家がある」
「そうなんだ。ニューヨークのどこ? アパートって」
「アッパーイーストサイド」
「セキュリティはしっかりしてるらしいな」
 口を挟んだのは工藤だ。
「ああ。バッチシ。心配には及ばない。エレベーターも個々についてるし?」
「最初の一、二週は森村も一緒に行かせる」
 工藤が付け加えた。
「ああ、モリーも一緒なら良太ちゃんも大丈夫よ。あの子、元シールズなんでしょ?」
 香坂が工藤の心の内を見抜いたように言った。
「サービス係も軍上がりだったぞ」
 京助が言うと、「ジムに頼むんやろ? ジムは陸軍や言うてた。精鋭部隊」と千雪が言った。
「兄貴が信頼してるヤツだから、まずトラブルはないが、心配ならあと二、三人、頼んでもらうぜ」
 真顔で言う京助に、良太は焦る。
「ちょ、どこのVIPだって思われるようなことは結構です」
「とにかく、三か月、仕事の都合で延びるかもしれないが、よろしく頼む。部屋代は会社に請求してくれ」
 良太の横で、とても人にものを頼むような口調ではなく、工藤が京助に言った。
「使ってないんだから、部屋代なんか取るかよ」
「そのサービス係はただじゃないだろう」
「わかった。その分はまた請求する」
「よろしく頼む」
 頭も下げないものの、仕事以外で工藤が人に二度も、よろしく頼む、などと言う言葉を使うのを、工藤をよく知る者が聞いたら驚くかも知れない。
「ほんと、高広。過保護なんだから」
 業界では鬼の工藤と呼ばれるその男を、軽く笑う香坂はやはりその上をいっているらしい。
 眉を顰める工藤は、そんな香坂に反論もできない。
「なんか、ニューヨーク、ちょっと懐かしくなったな。良太ちゃんがいるうちに遊びに行こうかな」
「あんたの代わりになるやつをその間モルグによこしてくれるんならな」
 楽し気に笑う香坂に、京助が釘を刺した。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます