月澄む空に148

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「京助ってば、ちょっとマジ過ぎない?」
 香坂が肩をすくめる。
「暗い汚い臭い眠れないって覚悟があるんなら大歓迎とかって、こないだ来た研修生をビビらせてやめさせたろう、あんた」
 京助は笑いもせず、香坂を睨む。
「あら、だって、蓋を開けたら聞いてたのと違ってたなんて嘆かれてやめられるより、いいじゃない?」
 この人、工藤と同じ考え方だ、と良太は思う。
 面接にきた学生に、伯父が中山会の云々、などと言えば大抵回れ右するに決まっているが、最初に言わないで途中でわかって辞められるよりはいいと工藤は言うのだ。
「だからいつも人手不足で、悪循環なんだろうが」
 京助が良太の心の内を代弁するように言った。
「やらせてみてから本人が決めればいいんだよ。中にはそれでもやるってやつが全くいないとも言い切れないだろう」
「まあ、それも一理あるか。可能性として一パーあるかどうかってくらいだけど」
 香坂は納得したようで実は九十九パー否定した。
「何も言わんで学生に任せてどう転ぶか見守ったったらええん違う? 俺の経験から言うと、クサソーキモイネクラいうかっこしとったら、まあ、九十九パーは近寄ってけえへんけど、そんなん飛び越えてウザく付きまとってくれた変わりもんが一パーくらい?」
 口を挟んだ千雪が嬉々として持論を展開した。
「お前の場合は、実際近寄ったら臭くないだろうが。モルグは実際臭いんだ」
 京助が抗議する。
「現実に臭いかどうかは関係あれへん。嫌な臭い思うと臭いんや。やから、これがモルグの臭いなんやいう普通一般とちゃう感覚の持ち主が、現に京助を始めとしてモルグにいるわけやろ」
「それ、うっかり聞き流しそうだけど、言っている内容はかなりきつい気がしますけど」
 良太も討論会に参加する。
「きつい、言うお前も、歯に衣着せぬ物言いやん」
 千雪に言い返されて、良太はちょっと笑って小首を傾げた。
「千雪さん、歯に衣着せるとかしないじゃないですか」
 すると香坂が高らかに笑う。
「いいわ、良太ちゃん。どこに行ってもやっていけるよ、君!」
「こいつは負けん気だけで世の中渡っていけると思ってるだけだ」
 工藤が香坂に言い返した。
「負けん気だけじゃ通用しないって、この業界入ってからよーく勉強させてもらいましたよ」
 それこそ負けん気で良太は工藤に言った。
「あら、高広がこれまで新入社員募集で面接した中で、逃げ出さなかったのはその負けん気の良太ちゃんだけなんでしょ?」
「どこからそんな話を聞いたんだ」
 工藤は香坂を睨みつける。
「鈴木さんよ。前に一度オフィス覗いたら、高広も良太ちゃんもいなくて、でもチクったとかじゃなくて、本当に高広のこと心配してらっしゃるのよ」
 工藤が言い返さなかったのは、鈴木さんのことだったからだろう、と良太は思った。
 工藤も、鈴木さんが工藤だけでなく、社員のことも心配してくれているのをよくわかっているのだ。


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