月澄む空に149

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 そしてどうも工藤としても鈴木さんには頭が上がらないらしいことも良太は知っている。
「でもさ、あのオフィスで、平然としていられる鈴木さんこそ、人格者だと思わない?」
「それ、俺も昔思たわ。鈴木さん、何があっても動じないって感じで、美味しいお茶とか出してくれるねんで」
 香坂の意見に同調した千雪が主張した。
「いやほんと、俺なんか、俺がいない時、猫の世話してくれる鈴木さんあってこそ、動けるんで、感謝しかないです」
 良太は嘘偽りない本心を口にした。
「研修中猫の世話、どないするん?」
 千雪に聞かれて、「鈴木さんが世話してくれるってことにはなってるんですけど。でも、三か月毎日ってわけにもいかないですよね、考えたら。離れてるから妹にってわけにもなあ」と良太はマジで考え込んだ。
「猫のメシくらい俺がやっておく」
 良太はよもやそんな言葉を工藤が吐くとは思えず、工藤を凝視した。
「や、でも、工藤さんも忙しいんだし………」
「ほんならよかったやん。優しい社長がおって、これでニューヨーク行っても何の心配もいらん」
 胡乱気な良太に、千雪がからかい半分でその問題を締めくくろうとする。
「大丈夫よ、良太ちゃん。そんなに心配しなくても何とかなるから。それより、ニューヨーク行ったら、絶対行った方がいい店とか、今度ラインするね」
 細かいことは気にしない香坂が言った。
「お上りさんに毛が生えたくらいのこいつに、お前が好むような店を教えたって、せいぜいぼったくられるくらいが関の山だからやめとけ」
 すかさず工藤の横やりが入る。
「ちょっとそれ、過保護過ぎるわよ、高広! あ、わかった! ニューヨークのドラマの見過ぎでしょ、それ」
 文句を言う香坂に、「いやあ、結構事実をもとにしてるドラマは多いからなあ」などと速水がぼそりと言った。
「大体、T大のモルグどころじゃないでしょうが、向こうの検視官は。検死解剖数からして桁違いだし」
「まあ、そうだが、向こうは、とにかくまず解剖だからな。日本はやたら手続きだの何だの多過ぎて事件性をスルーしてるケースばっかだろ。大体開かなけりゃわからないことのが多いってのに」
 速水の話に京助が付け加えた。
「まあねえ、忙しさはこっちの比じゃないけど」
「それでも法医学者が少なすぎる。一人でもモルグへ引っ張り込むことを考えた方がいいんだ」
 京助は断言すると、グラスの酒を飲み干した。
 話が、別の方向へ行ってしまったが、良太としては、法医学者たちの抱える問題点より猫の世話の方が重要なのだ。
 工藤が猫にご飯やってるところを想像することが難しいのだが、そういえば以前、良太がいない時に、工藤が猫にご飯をやってくれたとか、鈴木さんが言っていたのを思い出した。

 


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