翌朝、谷川を待ってオフィスにいた良太に、工藤から電話が入った。
海外にいる工藤がイラつくだけだろうと、良太からは連絡を入れなかったのだが、口籠った良太のようすに、「何があった? とっとと話せ」と工藤は催促した。
仕方なく、小宮山が自分から車に当たって入院し、逃げた車は盗難車でマスクをしていた男は見つかっていないといったことを話した。
「ったく小田も何やってるんだ、まだわからないのか」
工藤は声高に怒りまくる。
「とにかく幸か不幸か小宮山さんは降板で、代役はもうお願いしてありますから」
「明日は帰る。お前はとにかく、仕事に集中しろ」
そう怒鳴りつけて電話は切れた。
「全く! そんなでかい声で怒鳴らなくても聞こえるっての」
ブツブツ良太は文句を言ったが、工藤としても何もできないのがもどかしくてやきもきしているのだろう。
九時きっかりに、谷川がオフィスにやってきた。
「おはようございます。すみません、お手数おかけして」
良太はコーヒーを持って谷川を窓際のソファへと促した。
「いや、もっと早く相談してくれてもよかったのに。まあ、北海道にいちゃ動けなかったが」
「いえいえ奈々ちゃんが優先ですから。それに怪しいとは思っても確証がないですから」
「小田事務所や加藤さんとこも動いてくれてるのに、なかなか尻尾を出さないってことか。警察は今一つ信用できないし?」
谷川は苦笑いして聞いた。
「まあ、これまでもいろいろありますからね。俺なんか昨日、例の刺された件まで持ち出されて、全く見当はずれもいいとこで」
「昔の事件を引っ張り出すのは得意だからね、警察は」
良太の話に、谷川が軽く返す。
「ただ、俳優さんやスタッフさんが怪我をしたりするようなことだけは避けたいと思っていたんですが」
良太は、はあ、と一つ息を吐いて、コーヒーを飲んだ。
「天野さんの話が確かなら、小宮山は自分から車に当たったわけで、それをされたらこっちはどうしようもない」
「ええ、それで夕べもお話したように、小宮山さんには降板してもらう理由ができたので、この後、黒田さんと会うことになってて」
「黒幕はトミタエンタープライズ、ですか」
谷川の目が眇められる。
「はい、社長の富田将次が元MBCで、工藤さんの先輩だったという」
「とりあえず今日明日でちょっと聞き込みしてみるよ。ターゲットがわかっている分、武蔵野署よりはマシだろう」
そう言うと谷川はコーヒーを飲み干してオフィスを出て行った。
谷川はせっかくの休みを返上して動いてくれるらしい。
良太も申し訳ないとは思うものの、工藤ではないが、ここはプロの力に縋るしかないだろう。
MBCのドラマのチーフプロデューサー黒田とのアポは十時半だが、何かに急かされるように良太はもう出かけようと立ち上がった。
「あら、おはようございます」
ちょうどそこへ鈴木さんがやってきたので、あとをお願いして良太はオフィスを出た。
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