月澄む空に65

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 十時からのミーティングはMBC本社会議室で行われた。
 工藤と出席した局のプロデューサーは君塚里美といい現在三十五歳、入社当初から歯に衣着せぬ物言いでここぞという時には先輩であろうと怯まず突き進み、少しでも隙があれば論破するので、パワーレディなどと陰口を叩かれたりしているが、本人はどこ吹く風だ。
 バリバリ業績を上げていく君塚は社内では女性版工藤などと言われて比較されることがあるが、笑うと可愛い美人で、かざりっけのない貝塚はあまり敵を作らないタイプで、そこは敵が多かった工藤とは違うところだろう。
 前回は紺野がメインプロデューサーとしてこのドラマのプロジェクトを率いていたが、今回は自分は統括プロデューサーとして君塚をメインに据え、工藤とタッグを組ませている。
 警察組織を舞台にしたこのドラマは人気作家上杉耀原作のシリーズもので、硬派な社会派ドラマとして前作も高く評価された。
「ほんっとにあのフルダヌキ! 融通が利かないとかのレベルじゃないわ。頭が化石よ化石!」
 カウンターを拳でどんと叩いたはずみで、グラスが踊る。
 スタジオ撮影が終わると銀座まで流れてきた工藤と君塚は後で合流する紺野の馴染みのバーにいた。
「今更だろう。あんな男に何言っても暖簾に腕押し、お前が体力消耗するだけだ」
「だってイラつくでしょ? 工藤さん、あいつにどう対処してたのよ!」
「無視だ無視。まあ、俺がいた頃はまだ課長だったからな」
「んっとに、腹立つ!」
 そう言うと君塚は残っていたウイスキーをガブガブ飲み干した。
 君塚が腹を立てているのは、制作部長の田中のことだった。
 今回年末年始特別番組として、東京とニューヨークを背景に主人公が活躍という触れ込みで、既にニューヨークまで足を延ばして撮影を決行したのだが、思った以上に費用がかさみ、その分今後の撮影にしわ寄せが行くというので、緊急ミーティングとなったのだが、予算の上乗せを要求する制作陣に制作部長の田中は渋った。
 君塚が声を荒げて田中に迫ったにも拘わらず、結局要求額の三分の一しか通らなかった。
「まだ撮影かなり続くんだよ? なんで俳優陣のギャラの上乗せだけなのよ!」
 君塚はバーテンダーにお代わりをオーダーして声高に言った。
「最初からそれ以上出すつもりはないのさ」
 そんなことを口にしながら、工藤は昨夜良太に無理をさせたと、若干贖罪の気分で考えていた。
 工藤に朝食を食べさせることを義務のように遂行している良太のために、朝は早めに起きて向かいのコンビニでスープやサンドイッチなどを仕入れてきたのだが。
「制作スタッフのが生活かかってるってのに!」
 君塚の悔し気な声に工藤の思考は中断された。
 工藤がまだMBCに在籍していた頃から、何を考えているかわからないような表情が乏しい顔で田中は上の顔色を見て動く男だった。

 


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