森村はちょうど店を出たところでソフィから電話があり、何か揉めていたようで先に帰ると言って、慌ててタクシーを拾っていた。
「乃木坂まで」
運転手にそう告げると、工藤は「何だ、引っ越しとか」と良太に尋ねた。
「え、天野さん、引っ越し先決まりそうらしいです。ストーキングされてるかもって言ってたじゃないですか。青山の、久田公博が引っ越すんで部屋が空くらしくて」
「青山?」
えらくうちに近いじゃないか、あのヤロウ。
工藤はそれだけで苛ついた。
「そういえばモリーやけに慌ててたけど、何かあったのかな」
「森村がどうした?」
「いえ、何か電話で揉めてたみたいで」
「フン、ほっとけ。人の喧嘩に口出ししたってロクなことはない」
ちぇ、まあそりゃそうかもだけど、そういう身もふたもない言い方するから、怖がられるんじゃんね。
良太は口には出さずに呟いた。
車窓から通りを見ると、街路樹はそろそろ色づき、秋の装いへ変わり始めていた。
何だか時間が経つのが速い気がする。
そんなことを思うって俺も年取ったってことか?
話と食べることの方に集中してさほど酔ってはいない。
ぼんやりと夜の街を眺めていたら、いつの間にか車は乃木坂についていた。
工藤がさっさと支払いを済ませ、車を降りると、良太も慌てて降りた。
「風が気持ちいい」
昨日までぬるかった風が心地よく通り抜けていく。
「ひとみさんじゃないけど、今日飲み会やって正解でしたね。みんなも一息ついてよく笑ってたし」
「適当なところで、また連れてってやれ」
「わかりました」
ここのところ良太もドキュメンタリーの撮影が続いたり、一連の事件があったりしたせいで、余裕がなかったと反省しきりだ。
本来、それこそひとみに言われる前に良太が考えるべきことなのだ。
「お前は、妙なところで考え込むな」
そんな良太の心を読んだかのように、工藤は良太の頭を掻きまわした。
ドアを開けるなり、なあなあと猫たちの歓迎を受け、良太は着替える間もなくご飯を用意すると、猫たちははぐはぐと食べ始める。
しばしそんなようすに癒されていた良太だが、ようやくスーツを脱ぎ捨ててシャワーを浴びた。
タオルで頭を拭きながら冷蔵庫を開けると、最近良太の中でブームの炭酸水を開けてゴクゴクと飲む。
ぷはっと大きく息を吐いた時、背後から強襲された。
くるりと向きを変えられた途端唇が合わさる。
ボトルを握りしめたまましばらく口腔を嬲られていた良太からやっと唇が離れる。
「苦しいって、何だよ、いきなり!」
悪態をついてボトルをテーブルに置いた良太だが、次にはベッドに二人して倒れ込んだ。
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