月澄む空に67

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「だって悔しいじゃないですか! いつまであの人の言い成りになってればいいわけ」
 今度は君塚は紺野に嚙みついた。
「あの男はバックボーンが大物政治家だからな。これ以上昇進する器はないから当分居座るんじゃないのか」
 紺野はこともなげに言った。
「ええええ?」
 酔いも手伝って君塚は顔を顰めて声を上げた。
「あの男の鼻先で、ガツンと一発かましてやればいい」
 バーテンダーが置いたラム酒のグラスを手に取り、工藤はせせら笑う。
「そりゃ、工藤さんならやれるでしょうよ」
 拗ねたように言う君塚に、「やってやろうくらいじゃないと、面白みもない仕事だろう」などと紺野までがけしかける。
「それで撃沈したら、工藤さんの会社で雇ってもらお」
「それは有難いが、うちは訳ありなやつらばっかだぞ」
 工藤は苦笑する。
「そうなんですか? だって、ここんとこすごいじゃないですか。映画も大当たり、ドラマも好調、会社は大きくないのに、やっぱ社員がみんなエリートとか?」
 君塚は突っ込んで聞いてくる。
「有難いスポンサーに恵まれてるだけだろう」
「そういえば、相変わらず鴻池産業、スポンサーでしょ? やっぱ鴻池さんって、工藤さんのこと愛してるんですね」
 ただでさえ口が達者な君塚は、酔ってさらに滑らかになっている。
 工藤としては鼻で笑うしかない。
「あ、否定しないってことはやっぱそう?」
「否定するべくもないってことだ」
「いや、実は俺だけじゃなく、そう思ってた人間は結構いるぞ?」
「紺野さんまで、何をいうやら」
 工藤の顔に苦々しさが浮かぶ。
 確かに仕事では未だ大いにバックアップしてくれるし、こちらが頼まなくてもスポンサーに名乗りを上げてくれる。
 鴻池産業としてもスポンサーとなっている映画なりが興行成績を上げてくれるのだからむしろ大歓迎というところだ。
 ただし、鴻池が良太に絡んできたことは工藤の中で決して許せるものではない。
「入社当時、ちょっと荒れてて、鴻池さんと一緒に女の子と遊びまくったことはありましたけどね」
 すると紺野がせせら笑う。
「あの人は遊びも派手だったからな。それにしても工藤、美聖堂にフジタ自動車、東洋グループまででかいとこばっかじゃないか、一体どんな手を使ったんだ?」
「美聖堂の斎藤さんはひとみとひとくくりで飲み仲間なんですよ。藤田さんは何だったかな、昔、ゴルフでだったか。東洋グループの紫紀さん一家は、小林千雪先生の縁戚なんですよ」
「まあ、お前は太鼓持ちができる男じゃないどころか、どんな大物にもへこへこしたところがないから、逆に気に入られているのかもな」
「フン、来るもの拒まず去るもの追わずなんで」
 工藤のセリフに君塚が「フーン、なるほど」と頷いた。

 


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