夢見月23

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「一月二十五日の、二十二時前だな。わかった。スケジュールを調べてみる」
 早速良太から秋山にも連絡が入った。
 手帳やタブレットをチェックした秋山だが、その日はアスカの数少ないオフの日だった。
「アスカさん、一月二十五日のこと、覚えてるか?」
 テレビの前に陣取って、紅茶を飲んでいるアスカは「一月二十五日? なんだっけ」と小首を傾げた。
「貴重なオフなのにって前の日騒いでたでしょう」
 テレビの画面は、先ほどからアスカが見ているドラマの第一話に戻っていた。
「ええ? オフ? うーん………」
 しばしアスカは考え込んだ。
 秋山としては、アスカのスケジュールはプライベートに関しては干渉しないようにというスタンスのつもりだが、大抵オフは特別な予定でもない限り、アスカは部屋でゴロゴロして、こんな風に好きな映画やドラマを見るとかくらいだし、食料品の調達も秋山がやっているため、ほぼ把握しているのだ。
 オフくらいマネージャーと一緒ではいやだろうと秋山は思うのだが、明日はオフという夜も大抵一緒に食事をして帰るか、送って行ってから食事を作って秋山も一緒に食べて帰るというような状態なので、年がら年中一緒にいるようなものだ。
 大体、仕事が終わって秋山が送っていくなり、アスカはジャージに着替えてしまうので、その後わざわざ夜中に外に出るような面倒なことをアスカの性格としてするはずもない。
 一件華やかに見えるアスカだが、お茶や食事にいくような友人といえば数えるほどで、ひとみか万里子か直子か、最近紗英とも少しは近しくなったものの、良太か会社の面々以外は、千雪や、祖父が京助の父親とは学生時代からの友人であったことから、よく出入りしている綾小路の面々とのつきあいくらいだ。
 基本的に仕事で顔を合わせた業界人とは知り合い以外の何者でもない。
 それこそ彼氏の一人として見つかるはずもなく、秋山も心配しているところだが、そんなアスカに不倫などという言葉ほど遠いものはない。
 ともあれ、秋山の記憶によれば、一月二十五日はオフだったが、前日の夜アスカを送り届けて秋山が帰る時に、アスカの携帯に連絡が入り、相手はどうやら母親だったことは覚えているが、さすがにその後はどうなったかわからない。
「俺が帰る時、確かお母さまから電話が入ったでしょう?」
 するとようやくアスカは、「ああ、そうそう、そうだった! ママから京都から帰れなくなったから、おじいさまと一緒に行けっていう電話だったのよ」と思い出したようだ。
「二十五日にですか? おじいさまとどこに行ったんです?」
「綾小路のおじ様のお誕生日だったのよ。パパとママが久々東京に戻るはずだったんだけど、急用で代わりに私に行けって言われて」
「じゃあ、綾小路さんへ行ったんですか? 何時に?」
 秋山はアスカに詰め寄るように聞きただした。
「えっと、六時過ぎに京助が迎えに来て、家に寄っておじいさまを拾って、綾小路に着いたのが七時前?」
「綾小路のおじ様というのは、会長のことですか? では招待客もたくさんいらしたんですか?」
 何と、東洋グループ会長の誕生パーティとなれば、十二分にアスカがそこにいたことを証明してくれる人間の一人や二人いるどころの騒ぎではないだろう。
 これで一気にこのくだらない不倫騒ぎを打破できる兆しが見えてきたと秋山は思った。

 


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