「私、こんなひどいこと言ってないわよ、ってとこは、あちこちにあるけど、私が小説の中で大活躍してて、もう何度も読んだわ」
理香もさっそく千雪をつかまえて小説の話を始めた。
「自分が書いてあるとこだけ、だろ?」
隣の速水がチーズをつまみながら茶々を入れる。
「誇張してるつもりあれへんけど、どちらかと言うと、本人よりどんだけかおとなしめに書かしてもろたし」
そこへ千雪が歯に衣着せぬ発言をかますと、「ちょっと褒めてあげたのに、可愛くないことしか言わないわよね、相変わらず、千雪ちゃん」と理香は千雪を睨みつけた。
「映画になるんだってね、スケジュールを空けるから、今度、千雪先生のドラマ、映画どっちでも俺出してよ、良太ちゃん」
柔和な笑みを浮かべてシャンパングラスを手にした宇都宮が参戦した。
「やめてよ、俊ちゃんが出たら、主役が食われちゃうでしょ」
良太が何か言おうとしたところへ須永を引き連れてひとみが登場した。
「それに、俺に言われましても。そういうお話は直接小林先生におっしゃってください。宇都宮さんが主演されるような小説を書いていただかないと」
良太がうまくかわそうとすると千雪が振り向いた。
「その話絶対多部にするなや。それは面白いとかって、俺に書かせようとするのは目にみえとおる!」
少し焦り気味に千雪は良太に向かって言った。
「いつもキャスティングに頭を悩ませていることを考えれば、もう筋書きができ上りそうな状況じゃないか?」
話を聞きつけた秋山までがからかい半分でそんなことを言う。
「宇都宮さんなら、俺らみたいに走り回るデカってより、なんか謎解きが好きなどっかの御曹司とか?」
いつの間にか来ていた天野までがそんな提案をする。
「あ、もう、それ、おあつらえ向きのモデルはいるじゃない、ユキ」
アスカが何を言いたいかを良太も察してしまう。
「ああ、何だかそれって、ほんとになりそうですから、その辺にしときましょうよ」
「今夜は花を愛でる会やし」
「そうですよね」
万が一ほんとになったら皺寄せがどっと来るだろう良太と千雪は頷き合った。
「天野さん歩いてきたんですか?」
Tシャツ、ジョガーパンツにスニーカーならジョギングの途中ですくらいな普通の人だが、黒に赤いワンポイントで統一し、これも黒のトレンチコートを羽織った長身は、ただモノではなくなる。
「速足で五分」
天野は三軒茶屋に住んでいたのだが、どうもストーキングされている気がするということで、昨年青山に越したのだ。
「せや、研二も後で寄る言うてたわ」
天野を見て思い出したらしい千雪が言った。
ついこないだ最終回を迎えたドラマ『検事六条渉』で、天野は六条検事役のひとみと絡む四宮刑事を好演したのだが、六条検事はひとみのために宛書したのかと思われるほどひとみそのものだったし、四宮は千雪の幼馴染である菓子職人である黒岩研二をモデルにしたらしいのだが、良太が天野を見てこの人と思ったくらい天野は雰囲気が研二に似ていたのだ。
「どうせ俺は想像力が欠如しとるよって、実物をモデルにせんと話もかけへんわ」
小説の登場人物には大抵モデルがいることを良太が指摘すると、千雪はそう捻くれていたが。
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