夢見月52

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 そういえば千雪の背後霊、もとい京助はとみると、香坂と何やら難しい顔をして話し込んでいる。
 香坂にまだ挨拶をしていなかったと、良太が奥へと歩み寄ると、「あ、良太ちゃん、久しぶり」と香坂は明るく手をひらひらさせた。
「お久しぶりです。ソフィさん、加賀さんも今夜はありがとうございます」
 難しい顔で話し込んでいた京助と香坂の横でソフィと加賀は何やら別の話で盛り上がっていた。
「いや、向こうに行けば、背中の不動明王もただのタトゥーってことになるってよ」
 加賀がニヤニヤと言った。
 中山組傘下の組の構成員だった父親を持つ加賀は、幼い頃からヤクザの子供ということで孤立していたという。
 身体が大きかったし、鋭い目つきのせいでイジメの標的にはならなかったのが救いだとか自分で笑っていたが、大学の時も父親がヤクザという噂が立ったのがうざったくて、自棄になり勢いで背中に不動明王を入れたらしい。
 入れてしまった後で、大浴場には入れないし、いろいろと面倒ごとがあるのがまたうざったいと知ったものの、後の祭りだった。
「アメリカなんか、全身タトゥーとか平気で歩いてる」
 ソフィが頷いた。
「不動明王の入れ墨なんですか?」
 良太が聞くと、「おう。結構腕のいい彫り師だったみたいだぜ」といささか自慢げに加賀は答えた。
「平造さんが背負ってる俱利伽羅龍王、あれもすごいですよね」
 元中山組の平造も加賀同様、温泉も大浴場は気軽に行けないし、風邪一つでも昔から工藤家とは縁がある病院限定で、そのあたり肩身の狭い思いをしているのを良太も知っていた。
 やがて入口のあたりがざわめいたと思えば、佐々木と直子がやってきたようだ。
「佐々木さん、直ちゃん、お忙しいところありがとうございます」
 早速良太は二人の方へ出向いて声をかけた。
「随分賑やかだね」
 相変わらず無駄に人を魅了する美貌の主がほほ笑んだ。
 佐々木らを見つけて藤堂や西口がやってきた。
「もう来週、向こうに発つから、あちこち挨拶周りもしてるの」
 直子が良太に言った。
「そっか」
 そう頷いてから、良太は直子の耳元でこそっと「約二年は向こうにいることになりそうだしね」とささやいた。
「そうなのよ。佐々木ちゃんは表向き一年ほどとか言ってるけど」
 あくまでも仕事で行くのだという佐々木は、沢村に合わせて二年、とは口にはしないようだが。
「向こうで落ち着いたら会おうよ。良太ちゃんはいつ発つの?」
「もうギリ?」
 すると直子は頷いて、「大丈夫、三か月なんてあっという間だから」と良太を慰めるように言った。
 直子が工藤と離れがたい良太の気持ちを察していることに対して、良太はハハハと空笑いする。
「ブルーベリーのパイ、今年も京助さん焼いてきてくれたよ」
「わーい、なくならないうちに食べよっと」
 良太に場所を聞くと直子はすぐにパイが置いてあるテーブルへと向かった。
 そのうちに奈々と谷川、志村と小杉、小笠原が海老原美亜と真中を引き連れて現れた。
 小笠原もドラマの撮影で出会ったモデルの美亜とは珍しくちゃんとしたお付き合いを続けているらしい。
「すっげ、芸能人ばっか」
 聞きなれた声に良太が振り向くと、子どもの頃からの幼馴染である肇と同級生のかおり夫妻が現れた。

 


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