明日のフライトを考えて、工藤は良太を疲れさせたくないとは思うものの、何やら離れがたいような思いにかられ、脳裏に燻る焦燥感を抑えながら、縋るような良太を抱いて口づけた。
いつの間にか眠ってしまった良太は、工藤に擦り寄ったままでアラームより早く目が覚めた。
身じろぎした良太を「まだ早いぞ」と工藤は抱き寄せる。
もうちょっと、いっか、三か月も会えないんだし。
工藤のぬくもりを手放しがたくて良太はまた眼を閉じた。
だがやがて良太の携帯がけたたましくデスメタルを奏で始めた。
良太はあたふたとベッドを降りて、音源を止め、バスルームに飛び込んだ。
「コーヒー淹れますから、あとできてください」
良太が工藤に声をかけた。
工藤も煩い音楽に文句を言う気にもなれず、自分の部屋に向かう。
ざっとシャワーを浴びて出てくると、機内で楽にできるようにと、良太はゆったりしたモスグリーンのデニムパンツにアイボリーのシャツを合わせた。
湯を沸かしている間に、最近近くにできたデリカテッセンで買っておいたサンドイッチとチキンサラダを用意する。
やがて工藤が身支度を整えて現れると、良太は「早いとこ食べて下さい」と促した。
工藤に朝食だけは食べさせたいと良太から聞いた平造は、トライポッド型の脚を一本の支柱で支える小さめのティーテーブルとそれに合わせた椅子二客をキッチンの近くに置いてくれた。
他の家具に合わせた暗めのバーントアンバーのテーブルセットはシックで落ち着いた雰囲気で、前に部屋に来たアスカが、これ欲しい、と言うくらい気にいって、平造にどこで手に入れたか聞いてみると言っていた。
新聞を見ながらいつものようにコーヒーを飲む工藤に、何か言いたいことがある気がした良太だが、何となく言いそびれたまま、サンドイッチを飲み込んだ。
コーヒーを飲み終えた工藤が新聞を置いた。
「そろそろ出る。気を付けて行けよ」
立ち上がった工藤は言った。
「はい、着いたら連絡します」
ドアを出る工藤に、良太は言った。
エレベーターに乗った工藤が腕時計を見ると九時、かなりギリだ。
つい、立ち上がるのが遅くなった。
まったく、俺としたことが。
駐車場に降りて車に乗り込むと、工藤は自嘲した。
一方、猫をぎゅっとしてから部屋を出た良太が、黒のマウンテンパーカーを羽織り、スーツケースを引きながらオフィスに降りると、いつもより早めに鈴木さんが来て、昨夜片付けきれなかったゴミなどを持って行ったりと忙しくしていた。
「おはようございます」
「おはようございます、良太ちゃん」
そそくさとキッチンに入っていくと、鈴木さんはコーヒーの用意をする。
「もう、工藤さんはお出かけになったのかしら」
「ええ、朝から会議みたいです」
良太が自分のデスクに行って、やり残したことはないかチェックしたりしていると、小さめのカートを引いて森村が現れた。
「おはようございます!」
カーキ色のカーゴパンツに短めのデニムジャケットを合わせた森村は元気一杯に笑顔を見せた。
久々郷里に戻れるのだがきっと嬉しいのだろうと、良太も笑顔になる。
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