真夏の危険地帯1

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 横浜ベイアリーナで行われている真夏のライブは、人気ロックグループ「GENKI」のライブ史上でも最高の盛り上がりを見せていた。
「なんか、すごくない?」
 ステージの袖で腕組みをしてステージとオーディエンスを眺めやりながらブラウススーツの浅野涼子は呟いた。
 今まで散々メンバーのしでかしてくれたあれやこれやのお蔭で辛酸を舐めさせられてきたせいで、ちょっとやそっとのことでは動じないはずの涼子だが、そんな彼女にしてはまた口にしたことのないような台詞も、楽音と鳴りやまぬ歓声によってかき消された。
 ラストの曲はギターから始まる。
 その音がいつもの音とは違うことに古くからのファンなら気づいただろう。
 そして現れたのはレインボーのメッシュが入ったロングの金髪、タンクトップの胸元にはCHクロスのペンダント、デニムにブーツ、スリムで身長はボーカルの一平より低めだが断然長い脚がプロポーションの良さを強調している。
 その細めの指が奏でるストラトキャスターが紡ぎ出す、重くしかしクリーンな音はオーディエンスの胸の奥深くに響き渡る。
 途端、場内は爆発するかのような熱狂に包まれた。
 オーディエンスの前にサプライズで唐突に現れたギタリストは、熱狂の中で小気味よい音を奏でながら一平との息の合った掛け合いといい、メンバーを見事に操りながら盛り上げていくテクニックといい、まるでずっとこのバンドのメンバーだったかのようにステージを自由自在に駆ける。
 だが、謎めいたベネチアンマスクで顔を隠したこのギタリストの正体に気づいていた者も無論いたはずで、やがてその熱狂の渦を呼び起こしたのだ。
 アンコールの二曲目が終わろうとしていた。
 ステージ上のベネチアンマスクが涼子を振り返り、合図を送ってきた。
「葛城くん」
 涼子は後ろに控えていたいかにも体育会系という感じの大柄な男を呼んだ。
「お願いね」
 やがてベネチアンマスクがステージの袖へと引っ込むと、アンコールの声と何が何だかわからないような熱狂がさらに大きくなった。
 ベネチアンマスクはスタッフの優花が用意していたポカリスエットのボトルを掴むと、浴びるようにゴクゴクと半分以上を飲み干した。
「サンキュ」
 ボトルだけまた優花に返したベネチアンマスクは、待っていた葛城とともにステージ裏へと消えた。
「な、誰? 誰?」
「え、あんなすごいギタリスト、いた?」
「ひょっとして、ガイジンとか?」
「にしてもすんげ、盛り上がり!」
 ファンのみならず、スタッフのほとんどにとっても謎のギタリストの出現はサプライズだった。
 ステージではアンコール最後の曲がそろそろ終わろうとしていたが、メンバーがステージから退いた後も熱狂はなかなか収まりそうになかった。
 猛暑の七月、横浜の夜のことである。
 


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