真夏の危険地帯26

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 そしたら、もしかしたら、父親はまだ生きていてあの店を続けていたのだろうか。
 時間が戻せるとしたら、自分はどういう選択をしたのだろう。
 元気はフン、と自嘲する。
 もしとかたらとか、考えても詮無いことだ。
 時は戻ることはないのだ。
 にしても、今日は昔のことばかり考えさせられる日だな。
「好きだったよ、一平が」
 するりと元気は口にする。
 みっちゃんはちょっと元気を見つめたが、何も言わず、器用に鮎から骨をはずしてかぶりついた。
 「一年の時、声かけられて、何かこいつ違うって思ってた。強引で傲慢なやつだったけど、俺には結構優しかったし」
 元気は塩焼きをつつきながら、言葉を続けた。
「気持ちがなければいくら俺でも男と寝たりしないって」
 骨と頭だけを残してきれいに鮎を平らげたみっちゃんは、ひとつ大きく息を吐いた。
「お前さ、今頃になってそれ、言う? しかも俺に?」
 みっちゃんは緩く首を横に振る。
「いきなりやられた時は驚いたけど、あいつも多分同じ気持ちなのかと思ってはいた。けど、あいつ女も色々いたし、ほんとはどう思っているかとかわからなくなって、確かに俺のこと特別扱いしてはいるけど、それは音楽だけのことかも知れないって、俺からそんなこと口にして音楽の方に支障きたしても嫌だったし。やっぱこいつは俺だけのものにはならないやつなんだって、だんだん結構きつくなって、どうにもならない気持ちが重くて。でもそのうち、自分の中で何とか折り合いをつけることにした。俺って実は弱っちいからきついのはゴメンで。そんな時に豪に会った」
「一平はバカなんだよ。自分の気持ち、伝える術も知らない。あいつにとって女って、ひどい言い方だけど欲を満たすだけってやつ? お前さ、学生ん時、一平に親、紹介されただろ?」
 みっちゃんは珍しく苦々しい表情で元気を見た。
「一度な。たまたま一平んちに遊び行って、朝、起き掛けに飯食ってる両親んとこ連れてかれて。普通、一晩中やりまくって、いくらシャワー浴びたっつっても、アタマまだ乾いてもいねぇのに、親ンとこ連れてくか? しかも俺、男だぜ」
 一平の突拍子もない行動はよくわかっているつもりだったが、元気もさすがにあきれ返った。
「普通、しねーな」
「だろう? そんな状況で、はじめまして、なんて。でもなんでみっちゃんにそんなこと言ったんだ? 一平のヤツ」
「一平じゃない、真理子弁護士」
 里芋のあんかけにとりかかりながら、みっちゃんは答えた。
「って、一平の母親?」
「そ。だから、うちの社員がどうのと、鈴木弁護士事務所に相談行った時、お前のことだとわかって、真理子弁護士が、元気さん、グループに戻って下さったらいいのにねって」
「へ? 何で? そんな、GENKIのファンなわけ?」
「GENKIってより、お前の、だろ、お前のことえらく気に入ってて」
「はあ? 何で?」
 元気は怪訝そうな顔をした。
 


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