「まあな、俺としては、豪がお前がGENKIに関わるのを邪魔するとかしなければって、黙認してたんだが。なるほど、豪に執念深くここまでお前を追ってこられて住み着かれて、押し切られたと。元気は結構乙女だったわけだ。誰よりも好きくらいじゃいや、オンリーユーじゃないといや!」
「うっせーぞ! みっちゃん!」
茶化すみっちゃんに、元気は声を荒げた。
酒が入っていたせいか、この店の空間があまりに居心地がよかったせいなのか、珍しく誰かに自分の心の内を吐露してしまったことが、元気は自分でも意外だった。
いや、人畜無害なバリアを張り巡らしているがその実お釈迦様みたいに掌の上で人を操るのがうまいみっちゃんに、きっちり誘導されて吐かされたのかもしれない。
店からタクシーを呼んでもらい、二人は車が来るまで外に出て風にあたることにした。
「やっぱこっちは、夜になるとぐんと過ごしやすくなるな。昼の暑さが嘘みたいだ」
「東京と比べたらな。それにこの辺りは街中より気温が低い」
「言っとくが、お前の音が好きなのは一平のやつだけじゃないからな。でなきゃ、こんなとこまで時間作って来やしない」
元気は笑った。
「俺の本気を嗤うなよ。まあ、GENKIはやれるとこまでやってみるつもりだしな。だから、お前もたまには非常勤任務をこなせよ。もし豪が邪魔しようもんなら俺は当然阻止するからとは、豪にも言ってある」
「豪に? いつ」
「こないだ、オーストラリア行く前か? お前がライブに出る時は絶対知らせろとかってオフィスに押しかけてきやがって」
「あの、バカ!」
「しっかり手綱を締めておけよ、妙なとこで暴れたりしないように」
全くあいつは何を考えているのやらと元気はため息を吐く。
「ヤツとダメになったら、今度は正社員になってもらうから、安心しろ」
ホテルで降りたみっちゃんが、別れ際にそう言って手を振った。
何が安心しろだ、胡散臭いんだよ、と元気は胸の内で悪態をつく。
「中橋の前までお願いします」
元気は運転手に告げると、シートにもたれて静かに目を閉じた。
風呂から上がると、元気は冷蔵庫を開けてポカリスエットを取り出し、半分ほどを飲み乾した。
髪をタオルで擦りながらポカリスエットのボトルを持って元気は自分の部屋へと階段を昇る。
開いた窓から流れてくる風が髪を揺らして通り抜ける。
さらさらと流れるのは風ばかりではない。
こうしているうちにも静かにさりげなく時間が流れていく。
こっちに戻ってきて既に四年になろうとしている。
何もかもが同じところにはいない。
何か、どこかしらは変わっていく。
ポカリスエットを飲み乾そうと口に持って行ったところで、ジャカジャカと携帯が鳴った。
もうすぐ午前零時になろうとしている。
相手はわかっていた。
勝手にGENKIの曲を、元気のギターのところだけ着メロに設定していった男からだ。
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