「なんだ」
つい声が不機嫌になる。
「……あんま、時差ないから、まだ起きてるかと思って」
「お前、GENKIの事務所に寄ったんだってな」
「……みっちゃんに聞いたんだな」
「わざわざこっちまで出向いてな」
しばしの沈黙があった。
「わかってる! あの人、みっちゃん、俺をあんたから引き離そうとしてんだ!」
元気は思わず携帯を遠ざける。
「でかい声出すな! バカ」
「あんたがライブに出るの俺が邪魔すると思ってるんだ! 俺はそんなこと考えちゃいない! 俺は、ただ…!」
「くだらないこと考えてないでもう寝ろよ!」
「眠れない……、なあ、元気もこっちこないか?」
「アホか、飲んでるな」
どうやら結構飲んでいるらしいのは、ちょっと呂律がおかしいことでわかる。
「そら飲んでますよ。明日からまだ三日も残ってる……あーあ、何で元気、ここにいないんだよぉ」
「いい加減にしろ、切るぞ」
「冷たい! 元気! もし俺の乗った飛行機が落っこちたら、これが最後の元気の声だってのに!」
「てめぇ、けったくそわりぃこと言ってないで、ちゃっちゃと仕事して、とっとと帰ってこい! このドアホ!!」
また少し間があった。
「俺、泣きそう。やっぱ、元気も俺がいないと寂しい? な、そうだろ? 俺ばっか元気のこと好きすぎて」
まあ、女がほっとかなくても、みっちゃんの言うような杞憂は今のところなさそうだが。
「あ、ああ、もう、俺、ダメだ。また元気のこと、欲しくなっちまったぁ! な、な、元気、エロい声、聞かせて……」
「勝手にサカってろ! 酔っ払い!」
「え、元……」
アホ面で携帯を握りしめている豪が目に見えるようで、元気は苦笑した。
数日後、かろうじて台風が来る前にオーストラリアから戻ってきた男が、早速伽藍にやってきてアホ面をさらした。
「ただいま、帰りましたぁ!」
ちょうどまったりとお茶を飲んでいた東が、大きな男を振り返る。
店内の風景画などは、元気の高校の同級生で母校の美術講師をしているちょっと太めになりつつあるこの男の作品だ。
「あ、ちょうどよかった、東さんにも土産、あるんすよ」
バックパックから取り出したワインと可愛らしいコアラのストラップを渡されて、東はにんまり。
「お、今回はオーストラリアか、豪。ありがたく頂戴するわ」
「そらもう、東さんには何かとお世話になってるし、紀ちゃんにはオーガニックコスメだよん」
「わあ、さっすが豪! わかってるよね~! ありがとお!」
ハンドクリームやらリップバーム、それにプラセンタクリームやらを渡されて、紀子も大喜びだ。
しかし何やら異様にテンションが高い豪に、元気は怪訝な視線を向ける。
「元気には、ルピシアのお茶と蜂蜜、それに現地に住んでる人に勧められたジャム。うまいってよ」
「……おう、サンキュ」
お茶は嬉しいが、無事に豪が帰ってきたことにほっとしているのだとは、元気は口にしない。
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