客も少ないのをいいことに、テーブルに陣取って、これはどこで撮った、ここの海は恐ろしくきれいだった、と豪は紀子相手にカメラの画像を見せ始めた。
「うわ、可愛い! これ、さわりたい、コアラ!」
紀子は一つ一つの画像に声を上げている。
「しかし、蒸し暑いな…台風くるんか、やっぱ」
カウンターで頬杖をついた東がひとつ欠伸をした。
「まあ、この辺りはちょっと掠めるだけだろ」
こんなのんびりとした日常がいいとか思ってしまうのは、年を取った証拠か。
それこそ年より臭いことを心の内で呟いて、元気は紀子と笑いあっている豪をチラと見やる。
そんな賑やかな時間帯にドアを開けて入ってきたのは、例の雑誌社の名刺をくれた天木と名乗った男だった。
ちょっと身構えた元気だが、カウンターに座った天木はコーヒーをオーダーして、にぎやかですね、と言った。
「すみません、うるさくて」
「何か、こないだ誤解されたんじゃないかと思って。俺、純粋に元気さんのギターが好きなんですよ。オヤジの影響でガキの頃からメタル一筋で、高校の時はバンドもやって粋がってた時もあったけど、せいぜいリッチーブラックモアとかサバスとかコピーしたくらいで、GENKIのライブに行って、バンドはやめました。元気さんの『GOIN’ DOWN SLOW』に圧倒されちまって」
天木は苦笑いした。
「コゾフ命とか言ってましたもんね」
「超渋いこと知ってますね。未だにコゾフとジェフベックは俺にとって神なんで」
元気も久々音の話に笑みが浮かぶ。
「ずっとライブ行ってたから、元気さんが辞められたのはショックだったんですが、こないだみたいな形でまたぜひ聞かせてくださいよ。『A Midsummer Night’s Dream』アンコールで久々聞けて再感動しましたよ。ライブでやると元気さんのギター存分に聞けるし」
そんな風に言われて、元気は微妙な気持ちになる。
確かにギターを弾かなくなることはないだろうが。
『A Midsummer Night’s Dream』はGENKIがメジャーデビューする前からやっている曲で、万人受けはしないがGENKIの音が好きなファンには名曲と言われている。
ブルーズっぽいソウルフルな曲で、一平はこの曲は元気のギターでなければやらない。
やがてそろそろ東京に戻らなければと言って天木は店を出たが、去年の夏のバカ坂プロのような有象無象と同一視して悪かったかな、と元気は心の中で呟いた。
「鳴ってるぞ、携帯」
洗い物をしている元気にカウンターの端でコーヒーを飲んでいた東が告げる。
わかっているのだが。
何となく出たくないのは、着メロがみっちゃんからだからだ。
要注意ということで先日着メロをわざわざ設定したのだ。
「はい」
洗い物が済んでも切れないコールに、仕方なく出る。
「は? 千葉? 今週末? 何言って、そんな急に、え……おい!!」
忙しいからと要点だけ並べ立てて切られた。
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