真夏の危険地帯32

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「バカ、ひとりでホテルなんか泊められるか。俺もホテルを取るから、紀ちゃんの部屋も俺が取るよ。こないだのお詫びに」
 慌てて元気は提案した。
「え、そんなあ……元気ってば、太っ腹! じゃ、豪もホテル泊まればいいよね」
 紀子の発言にまたしても東が一人で反応する。
「じゃあ、早速、俺、ホテル見繕って予約入れとくわ」
「え、おい、豪」
 これはもう、何が何でも一緒に行くという意思表示だ。
 豪はバックパックをひょいと肩にかけると、スタスタと店のドアをくぐる。
「あ、元気、今夜、路傍、な」
 豪が振り返ってドアから顔を覗かせた。
「あ、ああ」
 何だか否応なく、という感じだ。
 路傍でちょっと食べて飲み、そこから歩いて豪の家に向かう、といういつものパターンだろう。
 まあ、喜んでいるのは豪だけではない、のだが。
「んじゃ、俺、帰るわ」
 東が立ち上がった。
「おう、これから教室か?」
「そ、貧乏暇なし」
 チャリンと東が小銭を出した時、また、豪が舞い戻った。
「あのさ、元気、うちの親に、元気のこと紹介するって言ったから」
 一瞬、こいつ何を言っているんだ、と元気は意味を把握しかねた。
「何?」
「俺だって家族に紹介くらいできる。じゃあ、そういうことで」
 スタスタと出て行く後ろ姿に、最初に反応したのは紀子だ。
「うっわー、何、元気、いよいよ? おとうさんおかあさん、この人が俺の……」
「バッカ、ダチだって紹介くらいする……」
 あのバカ、みっちゃんから、何を聞いたんだ?
「いや、しかし、ダチだったら、わざわざ宣言してかないだろ?」
 帰りそびれた東が口を挟む。
「うっわ! いよいよ! うっわ!」
 千葉行きと豪の妙な宣言のせいで、ひとり有頂天になっている紀子を元気は眉を顰めながら見つめた。
 大方、一平が元気を家に泊めた朝、両親に紹介した話でも聞かされて、豪のやつ、また敵対心燃やしたくらいが関の山だろう。
 大体、紹介するっつったって、あいつんち鎌倉だったか? そんなところまで行く余裕はないし、何を一人で舞い上がってるんだか。
 第一、なんつって紹介するんだよ?
 親なんか一平の親みたくフラットに構えてるとは限らないんだぞ?
 俺はもう金輪際とにかくゴタゴタはごめんだからな。
 元気はしばし腕組みして、何だか足取りも軽く出て行った豪の残像を睨み付けた。
 鼠色の雲がいつのまにか空を覆いはじめている。
 何やら波乱含みの夏の伽藍は、まさしく台風にでも巻き込まれそうな様子を呈していた。

 


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