夏休み13

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「いや、悪い。お前はお前で活躍してるだろ。プロデューサーなんてすごいじゃんか」
 沢村は口調を変えた。
「プロデューサーなんていったって、名ばかりだよ。一応、今の目標はうちの社長の工藤。怒鳴り散らすのが得意な頑固なオヤジだけどな。実はこれがなかなかすごい男だったりするわけだ」
 良太は、本人の前では決して言わないだろう、賞賛の言葉を並べ立てた。
「へえ、そんなにすごいやつなんか」
「まあな、それに比例して女関係、も何だけどなー」
 黒川真帆とはどうだったんだろう。
 迎えに行った時はそんな話もしなかったし、良太も慌ててたから、またじっくり話をする時間もなかった。
 それに、女、だけじゃないし。
「良太?」
「え?」
「っとに、お前ってやっぱ変わんねーなー」
 いきなり笑い出した沢村に、寄った勢いでつられて良太も笑う。
 いつの間にか、沢村の呼びかけが広瀬、から良太、に変わっていたのも気づかずに。
「あ、俺が払う!」
「バーカ、プライベートだし、俺のが稼ぎがあるんだ。黙ってまかせとけ」
「まかせたぁ!」
 すっかり酔ってしまった良太を、沢村はタクシーでホテルのロビーまで送り届けてくれた。
「おい、しっかりしろよ? 明日、早いんだぞ」
「わかってるって、大丈夫! 今夜はごちそうさまでした!」
 頭を下げる良太を抱えながらエレベーターを待っている間に、沢村はボソッと言った。
「良太、俺が野球続けてこられたのは、お前のおかげなんだ。それだけは覚えとけ」
「へ?」
 沢村はエレベーターの向こうでにっこり笑った気がする。
 翌朝、良太はけたたましいモーニングコールに飛び起きて、その時の沢村の笑顔を思い出した。
 
   
 
 
 取材はばっちりうまくいった。
 プレイしている沢村は、昨夜の沢村とは違って、プロの顔でリポートするアナウンサーに接していた。
 帰りの新幹線の中で、良太は昨夜のエレベーターの前で沢村が言った言葉を思い返していた。
「確かに、そんなことを言ったような…」
 あれは夢ではなかったのだろうとは思うのだが、なにせ酔っ払っていた良太は、イマイチ自分の記憶が信用ならない。
 いったいどういう意味なのだろうと、考え考え会社に戻ってきた良太を待っていたのは、藤堂だった。
「どうかしたんですか? なんか顔がいつもと違いますよ」
「いや、ちょっと折り入って良太ちゃんに話があってね」
 工藤は帰っているらしいが、どうも藤堂のようすに、オフィスを出た方がいいだろうと良太は提案した。

 


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