鬼の夏休み10

back  next  top  Novels


 平造に何か聞いているのだろうかとも思うのだが、そこはいろんな人間に関わってきただろう家政婦のプロ、というやつなのかも知れない。
 いや、工藤ならこれまでにもあり、ってことなのか?
「綾小路さんとこには何時に行くんですか?」
 それを聞いていなかったと、良太は思い出した。
「ああ、今夜BBQパーティってことだから、六時くらいに行けばいいだろう」
「じゃあ、何か持っていかないとですよね? 東京出る前に何か見繕っておけばよかった」
 コーヒーを持って来てくれた杉田さんに、すみません、と言いつつ、良太は考え込んだ。
「適当なワインを二、三本見繕って持っていけばいいだろう」
「何か社交辞令的」
「社交辞令だろうが」
 事も無げに言う工藤に、良太はちょっと抗議したくなる。
 千雪さんとか、付き合い長いんだから、もうちょい考えたっていいだろうが。
 そんなことを考えた時、あっと思い当たる。
「ひょっとして、千雪さんとか来るから、きらいなパーティとかも行こうって思ったんだろ?」
 ついうっかり、杉田の前だというのに、良太は口にしてからしまったと思ったがもう遅い。
 そんな良太のヤキモチなどお見通しとばかりに、フンと工藤は鼻で笑う。
 なんだよ、タレントが風邪でスケジュール狂わせたとか怒ってたくせに、時間が空いたのならちょうどこっちに来られるとか思ったんだ、と工藤にムカついた良太はコーヒーをかぶりと飲んで、あちっ、と慌ててカップから口を離す。
「あらあら、良太ちゃん、火傷しちゃったの? 大丈夫? 少し冷ましてから飲まないと」
 杉田が心配顔で良太を見た。
「あ、大丈夫っす」
 ひりひりするのが少し落ち着いてくると、良太はミルクを入れて飲み直した。
「散歩がてら俺、車とってきましょうか?」
 食事を終えて、しばし杉田さんとテレビのワイドショーをぼんやり見ていた良太は、カンパネッラに置いてきた車のことを思い出した。
「そうだな、腹ごなしに俺も散歩でもするか」
 新聞を畳みながら立ち上がった工藤は、白い七分丈シャツにブラックデニムを履いている。
 良太が時々、クソ、と思うのは、良太がこのアイテムを選ぶとシャツが浮いて見えるし、ガタイの大きさもあるが胸板の厚い鍛えた中身の工藤なら着こなせるという事実だ。
「ちょ、待って、着替えてきます」
 良太は二階にあがって、Tシャツとデニムにパパっと着替えて降りてきた。
 工藤が散歩とか珍しい。
 そっか、今日は例のタレントが風邪引いたおかげで工藤にとっては予期せぬ休日になったわけなんだ。
 歩いてカンパネッラに向かうと、レストランはまだ開店前だったが、吉川が外を掃除していた。
「おはようございます」
 吉川の方から二人を見つけて声をかけてきた。
「おはようございます。車、ありがとうございます」
「いつでもどうぞ。うち、駐車場は広いんで」
 掃除用具を片付けながら、吉川は良太に笑った。


back  next  top  Novels