鬼の夏休み26

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「俺、何か、中山組の先代が工藤さんのそのお嬢さんに一目ぼれして無理やりみたいなこと考えてましたけど」
「今、八十歳くらいか? 先代は十年くらい前に亡くなったけど、お嬢さんの方は今もバリバリの姐御や、いう話」
 良太はしかし、少し眉を寄せた。
「でも、そんなみてきたような話………」
「見てきた話やね、それが。藤原さんのガキの頃の知り合いが、親が中山組やって必然的に元中山組で、真面目なヤツやったらしいけど、そいつに話聞いたて」
「え、平造さんの他に、元中山組がいるんですか?」
 意外な展開に良太は確認した。
「いや、その人はもう亡うなったらしい。で、平造さんの知っているお嬢さんいうんは、さぎりさんのことや」
「さぎりさん?」
「中山組の先代の奥方が生んだ娘を、両親に託したんがさぎりさん。つまり工藤さんの母親や」
「はあ……」
「まあ、自分の娘を抗争やなんかに巻き込みとうなかったんやろな、極秘裏に親に渡したつもりやってんけど、いつの間にかどこからか漏れてしもて、噂も広まって、工藤さんはさぎりさんを遠い私立の学校の寮に入れたらしいねんけどな、学校でもどこからか知れてしもて、結局地元に戻って来てんけど、相当なストレス抱えてたいう話で」
 えらく具体的な話である。
「って、誰の話ですか?」
 良太は聞いた。
「平造さん。前にちょっと聞いたことがあるんや。平造さん、先代の奥方の命で、さぎりさんを陰でガードしとったらしいね」
「え?」
 良太は驚いた。
「それが米兵と出くわして、ここが親子やろか思うんやけど、前のめりになってしもたんやな。米兵は夢中になったさぎりさんを残してとっとと帰還してしもて音沙汰なし、適応障害とかで入院してたんやけど、妊娠がわかった時はもう精神的に追い込まれてた時で、工藤さんが生まれて間もなく、飛び降りやったらしいけど」
 さらっと千雪は話すが、きつい話だ。
「それって、工藤さんも知ってる?」
「多分。まあ、その後工藤さんを育てた曽祖父が先に亡くなり、曾祖母が亡くなる時、先代の奥方が工藤家の弁護士を後見人に、平造さんを親代わりにしたいう話や。良太はそのうち、工藤さんからちゃんと聞いたったらええわ」
 そこで千雪は口を噤んだ。
 ただ聞いているだけでも重い話で、二人ともしばらく言葉もなく、氷が解けかけたアイスコーヒーを飲んだりしていた。
「ああでも、工藤さんに同情するとかはない思うで?」
「え?」
 思い切り工藤を同情の目で見ていた良太は聞き返した。
「工藤さんの中ではとっくに過去のことやし、特に母親とか逢うたこともないわけやから」
 千雪はクールに言い切った。
「だけど、母親も恋人も自殺したとか、普通だったらちょっと耐えられないですよ。だから、工藤さん、自殺って言葉に過敏で、前に長年一緒にやってきた業者さんが自殺された時、かなりダメージくらったみたいで、業者さんに少しでも仕事回すようにって、いきなり前にもましてシャカリキになって仕事入れたりして」
 はあ、と良太はため息をついた。


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