「新幹線の中で食べてきました」
工藤はコートとマフラーを脱いで傍らにあるポールハンガーにかけ、デスクに座った。
「お茶かコーヒー、お持ちしましょうか?」
「お茶を、お願いします」
工藤はすぐに電話をかけ始めた。
「お疲れみたいやな」
千雪も同じようなことを思ったようだ。
「年末からぶっ通し、京都で撮影だったから」
良太は答えた。
「ああ、匠、公演があるもんな」
「ええ」
良太はまたチラリと工藤を見た。
疲れはあるようだがいつもの工藤だ。
弁当を平らげて、三人でほっとお茶を飲んでいると、またオフィスのドアが開いた。
「このやろ、こんなとこで、呑気に茶なんか飲んで和みやがって!」
飛び込んできたのは千雪の背後霊、別名綾小路京助という。
「年の初めによそ様のオフィスに押し掛けて言う言葉やないで」
「おめでとうございます。だからデッキから戻る時に向こうから勝手に話しかけられたって言ってっだろ!? 女子高生に毛が生えた程度の女どもだぞ?」
京助はついでのような年頭の挨拶に続いて文句を言った。
「別に何も言ってへんやん」
「勝手にホームからいなくなりやがって! 帰るぞ!」
京助は千雪の腕を掴んで立ち上がらせると、コートやマフラーを別の手で掴み、ドアへと向かう。
「あ、良太、さっきの酒、ほんま、いけるで。お騒がせしました~」
千雪は京助に引き摺られながら、そう言い残してオフィスを出て行った。
何だ、痴話げんかってやつ?
良太は苦笑した。
「年明けから賑やかね」
ホホホ、とこちらは人間が大きい鈴木さんだ。
やがて京助や千雪のやり取りなど気にも留めず電話をしていた工藤が、出かけてくる、と出て行った。
「お疲れのごようすなのに」
行ってらっしゃいませと送り出した鈴木さんが呟いた。
良太も、お年始を兼ねてスポンサーのところへ出かけることになっており、時間をみて、慌てて飛び出した。
車のエンジンをかける時、工藤も車で出たことに気づいた。
「かなり疲れてたよな」
工藤は電話をかけていたし、撮影が滞りなく終わったのかすら聞く余裕もなかった。
二か所目の挨拶回りが終わって車に戻った時、携帯が鳴った。
「あけましておめでとうございます」
檜山匠とわかって、まず年頭の挨拶をした。
「おめでとうございます。ボス、帰った?」
匠が聞いてきた。
「はい、昼過ぎに戻って来てまたでかけましたけど」
何だろうと良太は身構える。
「いやもう、スタッフみんな疲労困憊状態で、ボスも当然疲れてるはずなのに、最後まで気張ってたからな、また出かけたって、ほんと、タフだな」
「ああ、あの人、ほんとに仕事の鬼ですからね」
何だそんなことか、と良太は胸を撫で下ろす。
「今回、俺の都合に合わせてみんなを走らせてしまったから、それに、ボスとは、演技のことで事細かく話しあって、妥協しないで付き合わせてしまったので、お礼を言おうと思って、携帯鳴らしたけどお話し中だったから、良太からよろしく言っておいてほしい」
「わかりました。明日からの公演頑張ってください」
「ああ、そうそう、チケット一応二人分送っといてもらったから、よろしく」
匠の電話を切って、しばし良太はぼうっと携帯を握りしめていた。
「演技のことで事細かく話し合って、妥協しないで………か」
良太はそんな風に言える匠が羨ましいと思ってしまった。
「とことん話し合う、とか、ないよな。俺がもし、俳優とかやってたとしたら、そういうのもあり、だったんだろうか」
以前も本谷と話し込んでいたのは演技のことだったらしいし。
「ったく、俺は。また、もし、とか言ってるし!」
自分を叱咤するように口にすると、良太はエンジンをかけた。
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