「ただ今帰りました」
良太の分も昼の弁当を買いに行ってくれていた鈴木さんが戻ってきた。
「ふう、やっぱり寒いわね、今年は。風が強くって」
「すみません、ありがとうございます」
ガラス越しに見る外の風景は陽ざしが出ているようだが、実際は気温がかなり低いようだ。
「マルネコさんのお正月限定弁当、これはあたりだわね」
蓋を取った途端に鈴木さんが言った。
「ちょっと奮発して正解だったわ」
八寸から和え物、海老の天麩羅が大きいし、焚き合せも入って量的には多くはないが、色も鮮やかに正月らしい華やかさだ。
「美味そう! いただきまーす」
こんな些細なことでも幸せを感じるんだから、俺ってお手軽!
今年も頑張るぞ!
良太はパクパクと弁当を口に運びながら、そんなことを思う。
「おめでとうございます」
ドアが開いたので良太が顔を上げると、小林千雪が立っていた。
「おめでとうございます」
鈴木さんが挨拶を返した。
「千雪さん、何かあったんですか?」
つい良太は立ち上がった。
正月早々いきなりこのオフィスにやってくる理由が見つからない。
「いや、ただのお年始。京都から戻ったとこや。これは工藤さんに」
千雪は京都の造り酒屋の名前が入った紙袋と名の知れたパティシェリーのロールケーキを差し出した。
「ご丁寧に、どうもありがとうございます」
良太は押し頂いたものをとりあえずテーブルに置いた。
「俺も、一緒にメシ、食うてええ?」
コートを脱ぎ、マフラーを取りながら千雪が言った。
「ああ、どうぞどうぞ」
良太が言うと千雪はもう一つ手に持っていた袋から弁当を取り出した。
「デパ地下で買うたんやけど、食えるやろか」
鈴木さんがお茶を運んできた。
「あら、伊勢屋さんのお弁当も美味しそうですこと」
「有名ですか?」
千雪が鈴木さんに聞いた。
「ええ、老舗ですよ」
「ほな、大丈夫かな」
「今日は、背後霊のお弁当じゃないんですね?」
良太の言葉に、弁当に箸を付けようとしていた千雪の手が止まる。
「まあな」
あれ、と良太は思う。
何かありそう。
「あ、美味いわ、これ」
一口二口食べると千雪が頷いた。
「あ、そうだ、『今ひとたびの』のキャスティングですけど」
良太は折よくやってきた千雪に、ドラマ化が決まっている作品の話を持ち出した。
「やから俺は俳優とかわかれへんから、良太、決めたって」
途端に煩そうに千雪は言った。
「っていうわけにいかないから、お伺いをたてているんじゃないですか」
「良太が誰に決めたかて、俺は首を縦にするしかあれへんし」
「まるで俺が横暴プロデューサーみたいなこと言わないでください」
「まあ、師匠が師匠やからな」
「ちょっと、工藤さんと俺を同一視するのだけはやめてくださいよ!」
良太はそれについては声を上げて抗議したくなる。
「俺がどうしたって?」
その時オフィスに入ってきたのは当の工藤本人だった。
「お帰りなさい」
良太はその顔から少し疲れを見て取った。
電話では話しているが、顔を見て話すのは今年初めてだ。
「おめでとうございます」
千雪の顔を見ると、「年明けから何かあったのか」と工藤が聞く。
「やから、お年始ですて」
「おめでとうございます、工藤さん、お食事は?」
鈴木さんも工藤の顔から疲れを読み取って尋ねた。
back next top Novels
