「いや、沢村とはリトルリーグから一緒の付き合いだからって代理人を押し付けられただけで、我儘なやつなんです」
良太はぶっちゃけ気味に言った。
「そういえば、マスコミ嫌いの沢村選手が良太ちゃんのパワスポは出てるからね、そうか、と思ったんだよ」
「ああ、はい、沢村としてはアディノの仕事をやったチームなら気心が知れてるからやってもいいとか、生意気なことを」
良太は言葉を選んで言い訳をした。
全く、佐々木さんじゃなきゃやらないと言ってますなんて、言えるわけないだろうが。
「なるほど。沢村選手は繊細なんだね。しかしこれで、良太ちゃんが今後の広告市場を左右しかねないドンだってことがよくわかったよ。君を怒らせないようにしないとね」
「は?」
何わけわからないこと言ってんだ? この人。
良太は頭の中にはてなマークが並ぶ。
第一沢村が繊細? どこをどう取ったらそういう結論になるんだ? 繊細のせの字にも程遠いって。
「いや、プロ野球の選手だから撮影期間も限られてくるし、早速沢村選手と佐々木さん、そしてプラグインとのアポ取りをお願いしたんだが、とにかく良太ちゃんに合わせますからね」
「あ、わかりました。早速、日程が決まり次第ご連絡いたします」
「あ、それと、今度の初釜にも、ぜひ沢村選手や藤堂さんをご招待したいと伝えてほしいんだが。沢村選手、二日の大和屋の茶の湯にも来ていただいたそうだし。佐々木さんはもうご招待しているからね」
「はい、わかりました。伝えます」
佐々木さんと付き合うんなら、茶の湯、親しまなきゃな、沢村。
良太はニヤッと笑う。
「今後ともよろしくお願いしますよ、良太ちゃん」
電話を切ってから、何となく背中がムズムズしたのは、ずっと紫紀が良太ちゃん呼ばわりしていたこともある。
くすくす笑いながらも内容は真剣そのもの、しかし慌てていたらしいこともわかる。
何か非常に重要案件だった気がするが、こんな会話で決定してよかったのか?
しかも俺が今後の広告市場を左右しかねないとか、ほとんどバカにされていたような。
「ま、いっか。しかし、でかい企業のトップってのは、わけわかんないね」
それこそもう、とっとと決めてしまいたいとばかりに、良太は再度沢村に電話を入れた。
今度はコール八回でも出ない。
何だよ、パスタ茹でるのにそんなに時間がかかるのかよ。
「…………お前な………」
ようやく出たと思ったら、沢村のよほど不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「パスタ茹でるのにどんだけ時間かかってんだよ!」
「……かかるわきゃねえだろ!」
と言ってから、観念したかのようにため息が聞こえ、「で、何だよ?」と沢村は聞いてきた。
「紫紀さんが、とっととアポ取りしてくれって、急ぐから。都合のいい日教えてくれ。佐々木さんも」
「俺はこの先、一週間はずっと自主トレ以外ないから、いつでも」
そう言うと、佐々木に予定を聞いているらしかった。
「ああ、佐々木さんは直ちゃんにスケジュール聞いてくれってさ」
「わかった」
携帯を切ってから、良太はようやく、あ、と思う。
ひょっとして、まずいところにかけちゃった?
何だか勝手に頬が赤らんでくる。
back next top Novels
