「遅くなってごめん。だって急にどうしても来いとか言うし」
ケンはそう言いながら近づいてきた女性を振り返った。
「あけましておめでとう! って、え、え、純、享の他に兄弟っていた? 私に紹介したい人ってこの人?」
女性というより、ミニスカートにブーツ、髪をアップにしたくりっとした目が印象的な可愛い少女という感じだが、ケンを見て驚いている。
「いや、従兄」
「従兄?」
女性が聞き返すと純は徐にケンに彼女を紹介した。
「倉本千恵美、ケンの従妹だ。瑠美さんの妹の娘だから」
ケンは驚いた。
「千恵美、ケン・オカモト・ロウエル。瑠美さんの息子だ」
「えええーーーっ! ウソ!」
千恵美は思わず立ち上がって声を上げた。
「ケンが、瑠美さんの実家に行きたいって言うから、まず千恵美に会っておいた方がいいかと思って」
純はそれから千恵美に、ケンが日本に来たわけや、これまでの経緯をかいつまんで話し、ケンが瑠美の実家に行きたいと言っていること、ケンには、千恵美は瑠美の妹真美の娘で今は東京の大学に在学中であること、実家は名古屋にある古い旧家で、千恵美には兄がいて結婚して子供がいることや彼女の両親、祖父母ともに健在だが、気難しい祖父が家を仕切っているし、純也と瑠美の結婚に最後まで反対していたから、おそらくケンが行っても歓迎されるかどうかわからないと説明した。
「そっか、だったら、私、明日家に帰るから一緒に来るのが一番いいと思う。思うけど、祖父は多分歓迎しないと思う。うちは未だに祖父が何もかも牛耳っているみたいな、古い家で、おばあさまも父も母も、それに兄も、祖父には何も言い返すことなんかできないのよ。私はそんな家が大っ嫌いだから、ほんとは毎年元旦は、家族での行事みたいのがあって、私も帰るように言われてたんだけど、ゼミの先生にお呼ばれしてるからって無視したの」
ミルフィーユをつつきながら、千恵美は言った。
「でもとりあえず、一度は休み中に顔を出すようにってお母さんにも言われてるし、明日、帰るつもりなんだけど、明日ご一緒できます?」
千恵美はケンに尋ねた。
「明日、OK。すまないが案内してもらいたい」
「わかった。でも純、あんたも来てよね?」
「え? 俺が一緒に行ったりなんかしたら、火に油を注ぐようなもんじゃね? 憎き岡本家の人間なんだし」
「この際、もう、そんなことどうでもいいわよ。こうしてケンが日本に来てくれたのよ、第一、あんたがいないと、誰が通訳するのよ」
「うう……」
唸りながら純は、通訳として自分も同行するが、自分が行くともっと状況的に悪くなるような気がすると、ケンに言った。
「ひょっとして、君たちは付き合ってる?」
ケンの指摘に、純はまたうう、と唸る。
「そうよ。別に血縁関係あるわけじゃないし、私が瑠美伯母さんのことで岡本さんちを訪ねてから知り合ったんだけど。両親と兄には話したのよ、そしたら父が怒っちゃってさ、バカみたい」
少しは英語を理解するらしく、ケンの言葉に対して、千恵美はそう言って口を尖らせる。
「そうだ、さっきから何か気になるって思ってたんだけど、ケン、ロウエルさんていうんだよね? 育ててくださった方がロウエルさんなんだよね? あの、キース・ロウエルさんって知らないよね?」
純が千恵美の言葉を説明する前に、キース・ロウエルの名前にケンは驚いていた。
「どうして、義父の名前を知ってるんだ?」
千恵美はそれを聞いて、えええーーーっとまた声を上げた。
「だって、伯母さんの部屋に手紙の束があって、その中にその名前のエアメールがあったのよ」
その話にケンは俄然興味をそそられた。
そのキース・ロウエルが義父ともし同一人物だとしたら、母の瑠美はニューヨークに行く前に義父を知っていたことになる。
そうなると、ロウエルがたまたまニューヨークで奇禍にあって亡くなった東京から来た若い夫婦が気の毒で、その子供を養子にしたという話がまた別のものになってくる。
「迷惑をかけるかもしれないが、ぜひ、明日、君に同行させてほしい」
ケンは静かに言った。
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