東京へ行こう 21

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 実際、今のケンにとって家族といえばジョーしかいないのだ。
 ジョーさえ連れてくればいい。
 あとは、日本語をマスターすればできないことはないように思われた。
 仕事は、アメリカ系の会社の研究所か何か、或はどこかの大学の研究室とか、探せば何とかなるんじゃないか。
 今こうしてこの国に来ているということは、ひょっとしてそういう未来への示唆なのではないか。
 今の仕事は、自分でなければならないということはないだろうし。
 自分が抜けたとしても、スターリングはまたどこかから適切な人間を探し出すだけだ。
 確かに、仕事も仲間も好きだし、住み慣れたあの町も好きだ。
 だが、何だか去年から精神的にきついことが続いていて正直つらい。
 いや、今はきついわけではないのだが、この先おそらくまたきつくなるだろうことを、ケンは恐れていた。
 今のうちに、何とか軌道修正しないと。
「何か、心配ごと?」
 しばらくして電車の中で純に問われて、ケンははっと気づいたように顔を上げた。
「いや、のどかだなと思って」
「まあ、ニューヨークとかと比べたらそうかもね、きっと」
「ロンドンに留学してたって? ニューヨークは?」
 すると純は苦笑いする。
「親父が、ニューヨークは鬼門だって言うし。伯父さんのことがあったからだろ」
「文也は来てくれたんだろ?」
「あちこちのお守りいっぱい持ってな」
「お守り?」
「夕べ、初詣の時買っただろ?」
「ああこれ」
 ケンはポケットから純に開運とか身を守るのだと教えられて買ったお守りを取り出した。
 何となくオフィスのみんなの分に一つ足して買い、土産にすることにした。
「まあ、気の持ちよう? そんな感じ」
「いや、きっと守ってくれるよ、これ」
 微笑みながらケンはお守りを握りしめてまたポケットに入れる。
「で、これからどこに行くって?」
「東京タワー。最近はスカイツリーばっかだけど、基本は東京タワーだから」
 どうやら純はかなりこだわりが強い、頑固な性格なのだと、ケンは確信する。
「今日は元旦だから待つけど、平気?」
 展望台に上がる人の列に並んでから、純が尋ねた。
「OK」
 この辺りまでくると海外からの観光客も多いのだと純が説明してくれる。
 確かに、黒髪に黒い瞳のアジア人種に混じって、金髪碧眼人種があちこちにいた。
 黒髪でも日本人ばかりではないようで、色んな言葉が飛び交っている。
「おー、きれい」
 あっちが横浜方面、あれがスカイツリー、そして向こうには富士山、と快晴の展望台で純に説明を受けて、ケンは一つ一つ感激し、携帯で写真を撮った。
 純が近くの女性に頼んで、二人一緒の写真を撮ってもらった時も、ご兄弟ですかと聞かれて、純は、そうです、なんて答えているのが、ケンは何となくわかった。
「最近はアジアからの観光客も多いからな。そういえば、ケン、英語の他にしゃべれる?」
 東京タワーを降りてから少し歩き、空いているカフェに入って落ち着くと、純は聞いた。
「そうだね、フランス語、ドイツ語、ロシア語はだいたいしゃべれる」
「そこに何で日本語がないんだよ」
 ちょっと咎めるような純の言い方に、ケンは苦笑いする。
「日本語、難しくて。でもこれから頑張ってマスターするよ」
「そうしてくれよな。じゃないと……」
 言いながら、純は携帯を見た。
「そろそろ、くるはずだけど……」
「え?」
「あ、来た」
 純は入口の方を見て、手を挙げた。

 


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