東京へ行こう 20

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「何がおかしんだよ」
 純はケンにくってかかる。
「純はアマンダが好きなんだ?」
「悪いかよっ! アマンダの出てる映画はみんな見てるんだよ。第一、あいつこそモデルみたいなくせ、あいつリワーノフって何者? 科学者とかっても書いてあったし」
 純までがそんなことをケンに聞いてくる。
 全く、世界中どこにいてもアレクセイの名前を聞く羽目になる気がする。
 ケンは「いや、何なんだろうね」と苦笑するが、アレクセイはそれだけの存在なのだと改めて実感する。
 そのあとは映画は何が好きだ、ハリウッドの俳優と会ったことがあるか、ニューヨークで今クールなことは何かというような話で、みんな酒も入っているので声高になりながら盛り上がった。
 岡本家が毎年初詣に向かうのは、この辺りでは一番知られている柴又の帝釈天だという。
「寅さんで有名なんだ」
「トラサン?」
 純は日本では国民的な人気映画の主人公なのだと、人情味溢れた人となりを丁寧に説明してくれる。
 参道は人で溢れていたが、両側にずらりと並ぶ露店から美味そうな匂いが漂ってくる。
 その匂いに誘われてたこ焼き、お好み焼き、イカ焼きとあれやこれや、享と信道がかわるがわる買ってきてケンに味見をさせる。
 教わったようにケンもお参りを済ませ、みんなでお守りを買ったり、おみくじを引いたり、何もかもがケンにとって新鮮で楽しいことばかりだ。
「お、ケン、大吉じゃん! え~俺、末吉~」
 純はおみくじに文句を言っている。
 四人でわいわいと過ごした後、信道と別れて三人家に戻ると、酒の力もあったし、そんな風に家族に近い人々と過ごしていることに心の中のもやもやも忘れていて、初めて畳の上で体験した布団での睡眠は適度な柔らかさと固さが妙に心地よく、朝、享に起こされるまでケンはぐっすりと眠ってしまった。
「ケン、雑煮、できたって、起きなよ」
「good morning ……」
 身体を起こしてそう言ってから、そうだったと昨夜教えられたことを思い出した。
「アケマシテオメデトウゴザイマス」
 日本では元旦にはそう挨拶をするのだと。
「おめでとう! 早く行かないと冷めるって、母さんが」
 外していた腕時計を見ると十時を回っていた。
 享に案内してもらって、顔を洗い歯を磨くと、ケンは居間に顔を出した。
 既に家族全員が顔を揃えている、いや、信道は朝起きて自分の家に帰ったようだし、純はまだいなかった。
「アケマシテオメデトウゴザイマス」
 再びケンは皆に挨拶をすると、同じように返された。
「さあ、どうぞどうぞ、お雑煮なんて初めてでしょ? お口に合うかわからないけど」
 残念ながら、純がいないとケンには言葉が分からなかったが、お雑煮という単語だけは聞き取れた。
 雑煮はケンにとって面白い歯ごたえと感触で、美味かった。
 やがて欠伸をしながら、純がのっそりと現れた。
「あんたはこの一年また、寝坊の一年だよ」
 奈美が窘めるのも何のその、純はあまり機嫌のよくなさそうな顔でそのまま雑煮を食べ始める。
「っとにこの子は、寝起きが悪いんだから!」
 午後からケンは純に東京を案内してもらうことになっていた。
 やっとまともになった純と二人近くの駅まで歩いて電車に乗った。
 のどかな快晴の風景を電車の窓から追いながらケンはふと、こんな風に、両親の生まれた国で穏やかに生きていくのもありなのかな、などと思ってみた。

 


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