一人だけ、昔好きな人がいたが別れたと聞いたことはあったが、まさかそれがケンの母親の縁者だなどとは言わなかったし、ケンにはただ、近くに居合わせたロウエルが不幸な若い夫婦に遺された赤ん坊を引き取ったのだと話しただけだった。
だがそうすると、奇禍にあった若い日本人夫婦の連絡先がわからなかったため赤ん坊はロウエルが引き取るまで児童福祉局に預けられ、ようやく連絡がついたのはロウエルが亡くなった後だったという、その事実さえ嘘だったということになる。
少なくとも瑠美の家の連絡先を、ロウエルは知っていたはずなのだ。
ロウエルはあえて口を閉ざしていた?
「うーん、でも手紙出しても何の返答もなかった相手だろ?」
純が言った。
「それに、警察も伯母様の携帯に入ってた電話番号にかけてみたわけでしょ? それに対してきっと無下に切っちゃったのよ、うちの連中ならやりそうなことよ」
拳を握りしめて千恵美は悔しげに言った。
「身元不明の日本人夫婦、ってんじゃわからねぇかもな。うちの親とか、ああゆう能天気なやつらだから、そのうちひょっこり戻ってくるさ、くらい楽観的に考えてて、第一まさか日本にいないなんて、考えてもいなかったんだぜ?」
はあ、と純が当時を思いはせるようにため息をついたその時、千恵美の携帯が鳴った。
「何? あたしもう東京に戻るから」
千恵美は相手が誰か確かめると、つっけんどんな言葉で電話に出た。
「……いるわよ。え? ………わかった。亜矢の店にいる」
眉間に皺を寄せて、千恵美は携帯を切った。
「お母さんよ。何か、ケンに大事な話があるっていうから、少しだけつき合ってあげて」
それを聞いて、ケンはほっとした。
本当はもう少し、話をしてみたかった。
母の面影を真美から探したかたったのかも知れない。
手紙のことで、純と千恵美は各々の憶測を口にしていたが、ややあってドアが開いた。
「先ほどは父が失礼致しました」
凛としたたたずまいで真美はケンにしっかと頭を下げた。
「どうぞ」
千恵美が窓の方に寄ると、真美はそこに座った。
「あなたが姉の子供だと言うことはすぐにわかりました。ほんとによく似てるから」
そう言うと、真美は目頭を押さえた。
「母も生きていたら、あなたのような感じだったのかと思って、逢えてよかった」
純が通訳してくれた真美の言葉に、ケンは微笑んだ。
「本当は、弁護士のブラッドリーさんから姉と純也さんの訃報を聞いた時、すぐにでも飛んで行きたかったんです。でも父に反対されてやむなく代理人を向かわせました。代理人から姉の遺品とともに、二人に子供がいて、ロウエルという人に育てられたのだという知らせも受けました。二人がロウエルさんの手筈で丁重に墓地に埋葬されたとも………」
真美は淡々と話を続けた。
「父はああいう人ですから、そのロウエルとかいうアメリカ人が引き取って育てたんなら、それでいいだろう、うちには関係ないとか申しまして。もともと姉を可愛がっていましたから、家を捨てて純也さんを選んだことが許せなかったのでしょうね。どこの馬の骨ともわからないやつに娘はやらない、自分が見つけた三国一の花婿に嫁がせるのだと、高校を卒業する頃には婚約させていました。姉もその頃は付き合っている人もいなかったし、卒業したら結婚するという条件で東京の大学に進学したんですが…」
「純也さんに会ったわけね」
千恵美が言葉を挟む。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
