東京へ行こう 35

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「いや、同僚って言ってたよな。ってことは宇宙局ってことだよな?」
 純は確かめるように聞いた。
「ああ、そう」
 ケンは頷いた。
「面白い? どんな連中がいるわけ? ってか何でアレクセイが宇宙局?」
 純は矢継ぎ早にケンに質問を浴びせた。
「まあ、俺にとっては面白い、かな。いるのはほとんど科学者ばっかだから」
「そっか、アレクセイも科学者なんだっけ」
「アレクセイは多趣味だからな。バイオリンなんかもプロ級だし、料理もなかなかの腕前だ」
「へえ……てことはロジァも科学者? ああ、そっか、ケンと同じ、飛び級とかそういうやつ?」
 ケンは苦笑いを浮かべた。
「まあ、そんなとこ」
「千恵美!」
 ロジァが千恵美を呼んだ。
「ヤキトリ、カラアゲ、ネギトロにビール!」
 焼き鳥がロジァは気に入ったらしく、何度目かの追加オーダーだ。
「フフ、ロジァってなんか可愛いよね」
 ケンは千恵美の言葉にしっかり頷いた。
「もう、ガキで」
 千恵美はまた笑った。
「そういえば、ケン、恋人はいる? 結婚とかは?」
 ちょっと酔いもまわってきた千恵美の不意打ちの問いかけに、ケンは一瞬躊躇した。
「半年ほど前に付き合っていた彼女と別れたばかり。結婚の予定なんてかけらもない。君らは? 結婚とか考えてるの?」
「全然そんなこと、今はまだつき合い始めたばっかだし」
 千恵美は小首を傾げて言った。
「そうか。でももし、そうなったら知らせてくれ。飛んでくるよ」
「もちろん」
 千恵美の笑顔越しに、ケンはハンスの目と出くわした。
 だがすぐに視線を外したハンスの笑みは何だか苦そうだった。
 今の千恵美との会話が聞こえたのだろう。
 結婚の話をしただけだし、事実を言ったまでで、つき合うかどうか迷っている相手がいるなどと千恵美に話すことでもない。
 ともあれ、ハンスにはまだ何も答えてはいない。 やはり、早いとこはっきり答えを言うべきだろう。
「ケン、ケンってば、どうしたの? 難しい顔して」
「え?」
 千恵美に覗き込まれて、ケンは一人で考え込んでいたことに気づいた。
「明日、何時の飛行機? お見送り行けたらと思って」
「わざわざ見送りはいいよ、でも何時だっけな」
 ケンは携帯を取り出してスケジュールを確認しようとした。
「午後だよ。ハンスのジェットで一緒に行くから」
 アレクセイが聞きつけてケンの代わりに答えた。
「待てよ、お前が取ってくれたチケットどうすんだ?」
「んなもん、しょうがないだろ。みんなで一緒のがいいに決まってる」
 ケンの抗議にもどこ吹く風の返答だ。
「決まってるって、お前、これだから金銭感覚のないやつは!」
 ファーストクラスだろうが何だろうが、アレクセイにかかればそんなもん、なのだ。
 ケンは小さくため息を吐く。
 金銭感覚がないというより、金銭で考える世の中から逸脱してるんだ。
 って、つまり金銭感覚がないってことだけど。
 若い時に国を出ざるを得なかったから、ああなったのか、それともああいうやつだから国を出たのか。
 おそらく後者だろうな。
 確かに、根っから人間が自由にできてるようなやつで、才知や容姿だけでなく、性格も悪くないときてる。
 色恋めいた話題ばかりが取り上げられるようだが、あれで結構男気があるから友達も多い。
 ほんとに意図せずして誰をも魅了するからたちが悪い。
 あいつに魅入られた哀れな被害者はハンスだけではないだろうな。
 このままもし、ハンスとつき合ったとしても、いずれブリュンヒルデと同じ台詞を口にすることになる気がする。
 たまたまアレクセイの近くにいたのが俺で、たまたま俺はメグに振られて落ち込んでいたから、何となくああなってしまっただけで。
 またメグの時のようなダメージを被ることがわかっていてつき合うって、どうなんだよ。
 ケンは散々あれこれ考えてから、首を振り、考えるのをやめた。

 


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