東京へ行こう 34

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 店内にはいくつかの大テーブルがあったが、若者中心にどの席もうまっていた。
 廊下を通って案内された部屋は大きな男たちが何人も入るには少々狭いものの、畳に座布団だがテーブルの周りに足を降ろせるようになっていた。
 焼き鳥に始まって、エビの天ぷら、和風サラダ、牡蠣フライ、もろきゅう、じゃがバター、なすのチーズ焼き、ととにかく居酒屋ならではのメニューから雑多国料理のようなものまで、千恵美はとりあえず片っ端から注文した。
 千恵美の心配をよそに、四人の外国人たちは、出てきた料理にいちいち大げさに感激した。
「おい、ロジァ、お前はジンジャエールな」
「ビールなんか水みたいなもんじゃん、いっつも飲んでるんだし」
 ケンの忠告も聞かず、ロジァはみんなと一緒にジョッキの生ビールで乾杯している。
 そのあとは、小気味よいくらい次から次へと皿が空になっていく。
「ね、ね、みんなお箸とか使い方上手よね。純の方が大道をそれてる」
「うるさいな。要は食えればいいんだって」
 感心したように囁く千恵美をチラと見やり、器用なくらいに親指と中指、薬指の三本を使って純は箸を動かす。
「お邪魔しま~す!」
 その時襖が開いて、享がひょっこり顔を覗かせた。
「おう、享、遅かったな。ここ、座れ」
 純が促したのは隣の席で、アレクセイの隣の席でもあった。
 だが三人の金髪人種の出現は享の想像を超えていたらしく、しばし固まったまま一同を見つめていた。
「あ、俺の弟の享です。享、そっちから、ハンス、ロジァ、アレクセイ」
「よ、よろしく、享です」
 いつもはヘラっとしている顔をひきしめて、享はペコリと頭を下げる。
「高校生かな?」
 ハンスが尋ねた。
「いや、こいつこれでも大学生で、多分、ロジァと同い年くらい?」
 代わりに純が答える。
「そうか、F1が好きなんだって?」
 純がハンスの言葉を通訳すると、享はマジマジとハンスを見つめた。
「俺も車は好きなんだ。よろしくな」
 今度は隣のアレクセイに言われて、享は穴のあくほどアレクセイを見つめたまま固まった。
「え、アレ、アレ、アレクセイ・リワーノフ? まさかまさか……」
 やっと享は言葉を発したものの文章になっていない。
「ケンの同僚なんだってさ。聞きたいことあったら聞いてやるぞ」
 純がガチガチになっている享の背中をバシンと叩く。
 さらにハンスがG社のF1チームの人間だと聞くと、享は、うげっと妙な擬音を発した。
「すんげ……何で、こんなとこに、こんな人たち、いんだよ?!」
 ようやく我に返ったように、享は純に聞いてくる。
「だから、アレクセイとロジァはケンの同僚で、ハンスは友人なんだってさ」
「すんげ、ケンってどういう人間?」
 純を介してF1のことを色々質問しているうちに、いつもの享に戻ったようで、ケンやロジァも一緒になって、三年前のアメリカグランプリの話で盛り上がった。
 享も知っている単語を総動員して手振り身振りで話をしているのを見て、通訳にも飽きた純はボソリと呟いた。
「けど、アレクセイ・リワーノフなんて、いつも美女を侍らせているのかと思ってたから、ちょっと意外だぜ」
「あら、あれだけの美貌だもん、美女が吸い寄せられるだけじゃない? なんか、こんな間近で目の保養って感じ」
 うっとり気味に呟く千恵美に、純は、ちぇと舌打ちする。
「まな、あんなでかくなきゃ、美女かと思うって」
「アレクセイがどうしたって?」
 ケンは二人を振り返った。

 


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